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構造改革の現場から6                  かけはし2006.4.10号

重層的下請け構造の下で零細土建業者が背負う重圧

 全建総連傘下の組合書記Dさんに、小泉構造改革によって建設業界で何が起こっているのか、現場建設労働者がどのような状態に置かれているのかを聞いた。(編集部)

「構造改革」のしわよせ

――小泉構造改革によって、建設現場はどうなっていますか。

 建設業界というのはもともと重層下請け構造の中で雇用関係がはっきりせず、労働者としての権利もあいまいです。また複雑な労働状況などのために、労働者の側も労働者意識が希薄でした。例えば請負という制度は、文字通り一棟を材料を仕入れ、人を頼み家を建てるのもあれば、材料も支給で体ひとつでまさに労働力だけの請負があります。
 しかし、例えば、一平米いくらで請負えば、環境のよい現場では早く終わりそのぶん時間当たりの単価は上がります。しかし環境が悪ければ単価は下がりそのぶんの労働時間も長くなる。しかも期日に仕上がらなければ、ペナルティが課せられ、応援など入れられれば、その労賃分が差し引かれるという状況で、まさにいま建設労働者以外の労働者の実態が小泉構造改革によって、もともとある建設労働者の実態にさせられつつあると思います。
 例えば、いま派遣労働の網の目をくぐって労働者保護を無視した請負という労働形態・制度がありますが、あれはもともと建設業でずっと行われたことに近いものです。請負制度そのものが非常にあいまいな制度で、雇用関係も何もはっきりしないものです。そういうものが一般労働者の中にも適用されようとしている。派遣業とか契約社員とか、昔から置かれている建設労働者の立場に近いのです。
 建設労働者の立場で言えば、橋本政権の構造改革と言われた時からだんだんひどくなりました。加速化されてきているのが、まず公共工事の問題です。普通公共工事で思い浮かべるのは大きな土木工事や、橋梁、高速道、空港など金額も大きなものと思われがちですが、主なものは中小、地方都市や市町村での小さな箱物の公共工事が多かった。その受注は大手ゼネコンではなくて、中小・零細の業者が、仕事をとっていたわけです。
 それが談合批判や小泉政権の「三位一体改革」路線で、地方財政がますます悪化し、本当に必要な公共事業を減らしていく中で、都市の大きな箱物はバンバン作っているが、小さな箱物はほとんどなくなっていく。しかもそういうものを含めて下限なしの競争入札なので、大手ゼネコンがとっていく。中小零細は淘汰されている。小泉政権の住宅の構造改革、骨太政策は、中小建設業については淘汰すると方針を出している。それでほとんど仕事を失っている。

工事費の不払い問題

――消費税課税が変わりましたがどういう影響が出ていますか。

 二〇〇四年から、消費税の課税下限が売り上げ三千万円から千万円に引き下げられた。。今年は丁度その課税年になるわけですが、どういうことが起きているかというと、売り上げに五%の消費税を計上して経費の分を差し引いて残りの額の五%を消費税として払う。
 消費税として払う経費として認められている中に、材料費とかは全部認められるが、労賃は消費税を取られませんから、労賃は経費として認められません。そうすると事業主は常用で働いている労働者を全部外注扱いにしてしまう。外注にすると経費として認められる。
 雇用関係がないとすると消費税は安くてすむ。ここで働いている労働者にとっては雇用関係は切られてしまうし、労働者としての権利を切られてしまう。いままで常用だった人たちも放り出されている。一人親方が急増している。労働者ではなくされて、自分一人で一人親方労災などを掛けざる得ない状況になっています。

――いま一番問題となっているのは何ですか。

 不払い問題です。小泉内閣以後、また東京では石原都知事になってから、見積りの積算方式を変えようとしている。公共工事をやるのに見積りを出す。今までの積算方式ですと例えば材料にいくら、この工事には労賃がいくらかかるか出していって、それを積み上げて合計していくらと積算した。二〇〇三年から始まった施工単価方式に転換させられて、いま進められているのは一括で、直接工事費がいくらかかるのかで出せとなった。そうなるとダンピングをせざるを得なる。

――積算の根拠を示さないと値段のつけようがないのでは?

 施工での単価、たとえばこの箱物を民間ではいくらで作られているか市場調査で調べて、それに基づいて出せとなっている。通常公共工事については、労賃なんかも設計労務単価で決められていて、それに基づいて積算をして、それを全部積み上げて出した。一応いまでもそうなっているが、それがなくなりつつある。

――不払いとの関係は?

 そうするとどういうことが起こるかと言うと、とうていできそうもない金額で受注するのです。ゼネコンは自分で工事をしませんので、受注した一五%くらいをピンハネして一次下請けに出します。建設業界では丸投げ禁止なんですけど、ほぼ丸投げという形です。
 一次下請けはまた二次下請けに丸投げする。二次下請けは請け負うわけですからやらざるをえない。工事を進めていくと受注した金額と違って労務費だけでもかさんでいく。それを三次、四次のほとんど零細中小企業やひとり親方の人たちに対して、「これしかない」という形で払う。
 当然建設業ですから、作った後ダメ出しといって、最初に作った構造と違っていたり、お客さんの希望するものと違っていたりすると、そこを直させられたりする。それを普通追加工事という。
 追加工事は別途の工事費と法律で決められているが、本工事費が元々安いので、ゼネコンは追加工事費をデベロッパーに請求できない。その追加工事の材料費も含めて二次、三次請負に負担させる。そうすると二次、三次請負は労賃が払えなくなる。

労賃も親方の持ち出し

――労賃は月決めのようになっているんですか?

 通常一日いくらの日給月給です。建設労働者の賃金はストレートに市場化されている。賃金はその日、その現場によってそれぞれ違うし、親方、社長の一方的な金額となる。全然仕事がなく家に居るよりも、四千円〜五千円でももらった方がいいとなってしまう。
 一番多いのは追加工事費を請求しているからもらえれば払うと言う。だから、いま工事をやめるともらえなくなってしまうから、やらざるを得ない。労働者よりもひとつ上ぐらいの中小零細や親方が持ち出しをしたりしてる。労働者が来てもらえないと仕事ができないから、もらうおカネに自分のポケットから上乗せして払わざるをえない。あるいは、この会社が労働者に賃金を払えなくなり、逃げてしまうこともある。
 次のような相談があった。三次下請が二次からもらっていないカネが三千万円あった。この三次下請の会社はとりあえず借金して労賃を払っていた。ところが、払い過ぎてしまって銀行からおカネが借りられない。これをもらえないとパンクしてしまうと相談にきた。こうしたケースが非常に多い。
 そういうケースでは、一次、二次下請は払わないので結局、ゼネコンに払えと交渉に行く。一日いくらで契約していて、いくら払っているのか、見積りは幾らかとつけ合わせをする。下請けに出した労賃が一日三千七百円だった。三次下請が払っているのは一万七千円なんですよ。
 なんでそんなひどい仕事を請負うのかと思うんだけど、いまは最初に見積りも出させないケースも多いんです。「とにかく工事を始めてくれ」と言われて工事を始めます。そうすると工事が完成した段階で、向うから見積りが出てくる。二次下請は「ゼネコンからもらってないから、電気工事代はこの分しか払えませんよ」となる。それがいま常態化しています。
 「今回はデベロッパーやゼネコンが渋ってカネくれないから、これでがまんしてくれ。次回の工事に関しては、ちゃんと取ってあげるからその時に上乗せするからがまんしてくれ」となっている。だから、二回目、三回目になるともうがまんできないとうちに相談にくる。
 建設業界に昔から言われているのは「半値、八掛け、二割引き」です。半値にされて、八掛けされ、それから二割引きにされる。

残業代・交通費もなし

――ひとりひとりの労働者からの相談はないんですか。

 もともとの相談はひとりひとりの労働者の組合員が多いです。そうした労働者の不払いについて会社に申し入れに行くと、その会社ももらえていないとなっている。じゃあ、まとめてゼネコンと交渉しましょうとなります。

――いつ頃からこういうことが起こっているのですか。

 一九九〇年代の中盤くらいからです。二十〜三十人を雇っているような会社の社長が不払い相談で組合に入ってくるので、税金や銀行の貸しはがし、サラ金問題などあらゆることが見えてくる。

――賃金要求はどうなっていますか。

 協定賃金というのが全建総連傘下ではあったのですが、業者の集まりなので協定で一日いくらとしようという運動が続いていた。
 ところがバブルが崩壊するとそれがバラバラになって、さっき述べたような実態なので、要求賃金運動となって東京都連傘下だと熟練工で一日二万五千円を要求し、二万円以下の賃金をなくそうとしている。それをやっていますが現実的にはそうなっていない。
 年に二回大手企業(大手ゼネコンと住宅メーカー)と交渉をやっています。一日二万五千円、月五十万の賃金を要求していますが実際は難しい。なによりも現場で組織されていないのが現状で、賃金や労働条件、そしてあとで述べますが駐車場や産廃などが個別の課題となっている。労働協約なども課題としてありますが、やはりそれは労働者として現場で組織していく必要があると思う。ですから外国人労働者問題などは排外主義的な政策になってしまっている。

――労働時間はどうなっていますか。

 もともと建設業は町場が主流でしたから労働時間などあってないようなものでした。簡単に言えば日の出から日没まで。しかしゼネコンの現場や近隣との関係で五時までとかになっていった。それ以上超えると残業代がバブルの時は出ていたりしていた。今はほとんどないです。36協定みたいなものは組合の役員でさえ意識されていないというのが現状です。東京都内の労働者は賃金が高いと言われ、都内では働けない。公共事業がなくなって、地方の建設業界はほとんど破綻状況なんです。東京がひとり勝ちで、東京都内だけが仕事があるという状況です。全国から職人が東京に集中してしまっている。
 東京の仕事がとれないから、東京都内の職人たちは地方の安い賃金の所に仕事にいく。埼玉や千葉に行っている。朝八時の現場に間に合うためには、五時に出たり六時に出たりになる。
 それで交通費は出ないし、ゼネコンは現場の駐車代を協力会費ということで取る。道具なんか持っていかなければならないので絶対に車が必要なんです。それを「やるな」と交渉しています。「やらないよ」とゼネコンは言うんですが、一次下請同士の集まりの自主的な徴収だという形でカネをとっている。

守られない賃金適正化勧告

――監督官庁がこういうひどい実態を是正させないのですか。

 是正勧告は何回も出されています。二〇〇一年四月に談合批判が起きて、入札契約適正化法が通った。入札制度が競争入札になるのだから、労賃が安くなるのは分かっていたので、適正な労働賃金を下回ってはいけないという付帯決議も行っている。
 建設労働者の賃金の適正化についてという勧告が何回も国土交通省は出した。しかし、請負という隠れミノなどで企業は守らない。

――アスベスト問題についての取り組みは?

 建設業法、消防法でアスベストを吹きつけろと命令されていたわけです。ですから、建設業者は全員が被害を受けているわけです。それをやらないと消防署の立ち入り検査とか各自治体の立ち入り検査で許可が下りなかった。今まで一貫してやってきたのは労災認定です。中皮腫肺ガンの人に対して健康診断をうちでやって、労災申請をしている。今まで何年越しでやってきているがなかなか適用されなかった。去年のクボタ以来、いままでよりはハードルは低くなった。
 アスベストを使っていることが分かった時に、それを取り除くには専門業者が必要です。そうするとメチャクチャおカネがかかる。そのおカネをだれに払わせるのか。
 負担を業者に請負わせるとちゃんとした対策をとった処理はできないということで、知らないふりをして対策をとらずにやってしまう可能性が強い。廃棄するにも専門業者が必要なので、おカネがべらぼうにかかってしまう。それに対する補償が全然ない。講習を受けないと解体出来ないことになっているので、全員講習を受けている。実際にやれるかは疑問だ。自治体が命令してやらしていたわけだから、自治体や国、アスベスト生産企業が全部補償すべきだと要求している。
     (文責編集部)


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