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試験運転強行に抗議する                 かけはし2006.4.10号

六ヶ所村再処理工場放射能放出試験をすぐやめろ

高まる労働者・住民被曝の可能性中止の訴えを全国から届けよう

環境への放射
能のたれ流し

 三月三十一日、日本原燃は青森県六ヶ所村の再処理工場の試験運転(アクティブ試験)を開始した。開始当日の作業は、貯蔵プールに保管されていた九州電力の使用済み核燃料集合体二体をクレーンで燃料送り出しピットまで運ぶ工程が行われ、翌一日は集合体一体を三〜四センチの小片に切断するせん断作業と小片を硝酸溶液で溶かす溶解工程が始まった。ついに環境への放射能の垂れ流しが始まった。
 試験計画書によれば、ここ一週間程度のうちにプルトニウムの分離が開始される。半月後には分離した溶液を精製工程に移し、精製された溶液は貯蔵タンクに溜められる。これらの工程で回収し保管しきれない放射性物質を太平洋に放出する。岩手をはじめ漁場の環境保全をすすめてきた三陸沿岸の漁民がもっとも危惧する(本紙3月27日号参照)海中への放出が始まる。
 試験期間は十七カ月間。順調に進んだとすると七月下旬にウランと混合し粉末化したプルトニウム燃料製造が開始される。期間中に四百三十トンの使用済み燃料が処理され、約四トンのプルトニウムが回収され、高レベル廃棄物のガラス固化体が約五百本製造される。
 日本政府は「プルトニウムをウランとの混合酸化物(MOX)燃料とすることで核拡散抵抗性が高まるため平和利用が担保される」と公言している。しかし、IAEAは基準で、プルトニウム単体から核弾頭に転用される期間が数日間のオーダーであるところ、MOX燃料でも一週間から十日間というオーダーであり、大差のないことを認めている。
 われわれは放射能による環境汚染と生産基盤の破壊に反対する行動を強め、脱原発のスローガンとともに核兵器廃絶と核拡散防止の国際的なキャンペーンを強めなければならない。

企業利益優先
の試験強行だ


 建設や操業、廃止措置に約十一兆円かかるとの試算をもとに再処理積立金法が作られ、昨秋施行された。試験を開始すれば初年度分の再処理費用の取り崩しができる。電気事業連合会の試算では試験開始当初の数年は年間二千八百億円が必要とし、年度末まで九時間を残した試験の強行によって多額の資金入手が可能となった。
 大手電力会社は四月一日から電気料金値下げを行った。電力各社はこれまで原子力施設の法定耐用年数の十六年で減価償却してきたが、六ヶ所再処理工場に対しては操業期間の四十年に期間を引き延ばした。また、これまで再処理費用としていた使用済み燃料の中間貯蔵分を積み立て範囲から除外し、キロワット当りの再処理費用が従来より名目上で下げ、今回値下げの理由としている。
 この値下げをばねに、オール電化住宅の売込みなど、電力販売を強化している。年度内に六ヶ所再処理工場で試験が開始されなければ、この値下げ分の一部を電力会社は自腹で負担せねばならなかった。
 三月末、東京電力から電力を購入する全戸のポストに「全社をあげて進めてきた効率化の成果と今後の経営努力を最大限に織り込み、電力料金を値下げ」と印刷されたリーフレットが明細書と一緒に投げ込まれた。六ヶ所再処理の費用負担はごめんだという消費者の声を大きく上げていかねばならない。

原子力ルネッ
サンスの実態


 電力会社は「五重の壁」によって原発内から環境への放射能放出を防いでいると喧伝する。五重の壁とはコンクリート製の建屋、鋼鉄製の原子炉格納容器と原子炉圧力容器、ジルコニウム合金の燃料被覆管、酸化ウランの粉末を焼き固めたペレットのことだ。
 ウラン235は核分裂で二〜三個に割れ、セシウムやヨウ素、ストロンチウムや希ガスのクリプトン85などの死の灰となる。希ガスの発生などによってペレットは膨張し、被覆管はひび割れを起こし、死の灰の一部が冷却水に漏えいする。すると原発では運転を停止し、漏えいした燃料集合体を交換する。再処理とは、この五重の壁を取り崩す工程だ。
 使用済みとなった核燃料は圧力容器と格納容器から取り出され、使用済み燃料プールで冷やされる。輸送のため新たな壁である輸送キャスクに収められ、コンクリート建屋から輸送船に移され、長い海路を経て再処理工場の貯蔵プールに収納される。
 再処理工程ではまず被覆管が切り刻まれ、硝酸で溶かされたペレットからすべての希ガスが放出される。希ガスの一部はフィルターで捕捉されるが、クリプトンガスは全量が環境中に放出される。
 「美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会」などの試算によれば、日本原燃が国に申請したクリプトンガスの年間放出管理目標値は、スリーマイル島原発事故で放出された全希ガス量の三・六倍になるという。
 東海再処理工場ではクリプトンガスを九〇%回収する技術を確立している。六ヶ所再処理工場の初期の設計図では記されていた回収施設をなぜ設置しないのか。推進側は理由を次のようにしている。「スリーマイル事故などで原発の新増設が滞り、商業用再処理を日本以外に行う国がないので、地球規模での被曝の影響はコスト対効果で考えると六ヶ所には設置する必要はない」。
 日本政府と原子力業界は、ブッシュ政権による原発新設や再処理路線への転換、中国・インドをはじめとした原子力市場の拡大を「ルネッサンス」と評価している。東芝が総額五十四億ドル(約六千四百億円)でウエスチングハウス社を買収する一方、東海再処理工場では施設建設費を含め百六十億円で開発したクリプトンガスの除去施設を六ヶ所には設置しない。
 現況を「原子力ルネッサンス」と評するのは日本に限らない。韓国の原子力産業がインドネシアの原発建設を一括して契約したとも報じられている。六カ国協議での北朝鮮への電力供給というオプションは、南北対話の名をかりた国内での原発増設への布石と韓国内の環境保護グループは危機感を高めている。六ヶ所再処理工場の試験を目前とした三月三十一日午前十一時、韓国の環境運動連合など市民団体は共同でソウルの日本大使館前で共同声明を発しダイインを行った。

食品汚染への
不安が広がる

 試験強行に対し、岩手県の三陸沿岸の六市町村首長が日本原燃に抗議文送付など抗議の声が広まった。三月二十八日、日本原燃は二十四日に計画していた岩手県内の自治体と漁協関係者への再処理工場の見学と説明会への参加者が全くなかったことから、急きょ久慈市と宮古市での説明会を開催した。六市町村の抗議文には「説明会で漁業者の非常に大きい不安を実感された」「試運転開始など一連の動向に強く抗議する」と非難し、改めて住民を対象にした岩手県内での複数回の説明会を求めた。
 市民団体などのよびかけに応じた全国の市民からはJA青森など農業者団体にファックスやメールが集中した。三月二十八日に開催された青森県農協農政対策委員会ではこれらのメールが県内の農協に相次いでいることが報告され、出席した農協組合長から「業者からも大丈夫かという問い合わせがある。本県の農産物が安全なことを具体的データを発信するよう県に求めてほしい」などの発言が続いたと報じられている。
 青森県内では五年間に三千戸のリンゴ農家が廃業した。生果リンゴの輸入自由化開始への対策として品種改良やブランド化を強めたが厳しい状況だ。水産業も同様だ。むつ湾のホタテ加工業や八戸のイカ加工業では衛生管理対策としてHACCP(ハセップ)対策の遅れや設備投資負担のために倒産が相次いだ。〇二年には八戸漁連と八戸漁協が倒産した。地元の加工業者へ出荷できない収穫物は大手加工業者に買い叩かれる。
 毎年数千億円おちた核燃マネーは青森県産品を強めなかった。知事自ら各地で青森県産品を拡販する姿を映したテレビ番組では「食卓がグローバル化する中で、そのしわ寄せが生産者に向けられている」と表現した。日本人一人一日当りに供給される食料は約二千六百五十キロカロリー、実際に摂取されるのは約千九百五十キロカロリー。この差は約七百キロカロリーで四分の一以上の食品を廃棄している。消費者の行動は暴慢だ。
 六ヶ所再処理工場には約一万基もの主要な機器があり、配管の長さは千三百キロ(うちプルトニウムなどを内包する配管が六十キロ・継ぎ目の数は二万六千箇所)に及ぶ。多数の市民グループなどが試験の状況を監視している。微細なトラブルによる放射能漏れでも青森県産品への風評被害が広がる条件を試験強行が作り出した。農漁業者への打撃の責任は、消費者への説明責任を怠りスケジュールありきで試験を強行した国と事業者にある。不安が今以上に広がり青森県産品離れが起きる前に、労働者や周辺住民の被曝が進む前に、六ヶ所再処理工場の試験運転はすぐに中止すべきである。(4月2日 SK)


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