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                             かけはし2006.2.6号

06年度政府予算案を批判する

財政破綻を労働者市民にしわよせし資本の利益に奉仕する生活破壊予算

予算案の基本性格は何か

 小泉政権は、昨年十二月二十四日、一般会計を七十九兆六千八百六十億円、一般歳出が四十六兆三千六百六十億円とする二〇〇六年度予算案を決定した。
 小泉は「国債発行三十兆円以内にした」「財政再建にむけた緊縮型予算をよく作ってくれた」などと「自慢」している。だが、その予算実態は、新自由主義路線にもとづく構造改革、「戦争ができる国家作り」に向けた無駄な軍事費の維持、大資本のための巨大開発・環境破壊型の公共事業に対して手厚く配分したものである。民衆の生活に直撃する定率減税の縮小・全廃などの増税攻撃、介護保険料引き上げ、年金給付減、高齢者医療制度改悪、教育予算削減などを強行しようとしている。
 また、国の借金である新規国債発行額が二十九兆九千七百三十億円となり、国債の発行残高が〇六年度末で五百四十二兆円だ。これで国と地方の長期債務残高は七百七十五兆円に膨らみ、財政破綻が続いている。
 この慢性的な借金依存症体質のしわ寄せを民衆に押しつけた生活破壊予算が本当の姿なのである。

大衆増税と福祉切り捨て

 予算は、連続的な増税攻撃を前提として作り上げられた。もっとも負担増となるのが所得税と個人住民税を年間最大二十九万円軽減していた定率減税の縮小だ。一月から所得税の定率減税半減、六月から住民税の減税幅が半分となる。定率減税の残り半分も翌〇七年には全廃し、年間三・三兆円の負担を強要しようとしている。
 与党税制調査会(〇五年十二月十五日)は〇六年度税制改正大綱を決定したが、定率減税の半減・全廃だけではなく、酒税改正による増税、たばこ税増税も決めた。消費税については「〇七年をめどに消費税を含む税体系の抜本的改革を実現させるべく取り組んでいく」と明記し、税率引き上げ方針を確定した(前号松原論文参照)。
 谷垣財務相は「定率減税は非常に経済が悪い中で思い切った減税措置としてやった。ようやく日本経済も底を脱し、定率減税を克服できるところまできたことを安堵の思いで見ている」と述べ、「景気回復」に伴う当然の措置だと居直った。大企業などは、〇三年度の経常利益を二十兆円、〇四年度第3四半期が十八兆円と増加させたが、その中身は資本のグローバル化による生産拠点の海外移転、リストラと非正規雇用の促進、長時間サービス残業と強搾取労働の強制などの結果だ。それにもかかわらず企業に対しては法人税の最高税率を三〇%に引き下げたまま、システム投資減税延長などの優遇措置を継続し、低所得層民衆から搾れるだけ搾り取ろうということなのだ。
 小泉は、年頭会見で「今後も改革を続行し、この景気回復の軌道をしっかりしたものにしたい」と言い放った。いったい誰が「景気回復」していると実感しているのか。〇五年十一月の完全失業率が四・六%、完全失業者数が二百九十二万人。全国企業倒産〈負債額一千万以上、法的整理〉が七千九百五件、負債総額が六兆千百六十三億円(帝国データバンク)。小泉らは、この数字をどのように評価しているのか。そのうえ多数の民衆は、非正規雇用で不安定な雇用状態が続いている。資本主義の論理からしても、増税、自己負担増の強要によって個人消費傾向がスローダウンしてしまうだろう。しかし、獲得目標は増税と社会保障費の抑制などにあるから、後戻りすることはしないで小泉政府は強行突破するということなのだ。
 さらに、民衆の生活面に対して大幅な支出削減をした。国・地方財政の三位一体改革に伴って、地方向けの補助金六千五百四十五億円を税源移譲の対象として新たに削減した。義務教育費国庫負担金は、国負担割合の二分の一から三分の一への引き下げを強行し、〇六年度は八千四百六十七億円を削減する。
 介護保険は介護報酬を〇・五%引き下げ、国庫負担を九十億円削減した。応益負担を導入した障害者自立支援法が成立した結果、福祉分野への予算配分も削減した。
 高齢者に対する医療負担増も強要している。窓口負担は十月から七十歳以上が三割に引き上げられる。〇八年度以降は、七十〜七十四歳が二割も引き上げられてしまうのだ。負担増に貫く医療制度改革大綱をまとめたことについて、川崎厚労相は、「医療の質を落とさずにこのままでやっていくことができないことは分かっている」と述べ、負担増を強行し続けていくことを宣言した。
 小泉政権による連続的増税・負担増の暴走をストップさせなければならない。

巨大プロジェクトの推進

 財政危機を反映して公共事業関係費は〇五年度当初予算比四・四%減の七兆二千十五億円となった。五年連続で減少したが、大資本とゼネコンのために都市重視の巨大プロジェクトに膨大なカネのばらまきを続けようとしている。
 道路関係予算は東京、大阪、名古屋の環状道路の整備を含めて、東日本が二千二百八十九億円、中日本が三千六百九十九億円、西日本が千九百四十二億円、首都が千二百七十六億円、阪神が五百七十億円と増額した事業規模となっている。これは与党道路族議員とゼネコンに応える形で作成した都市再生路線と無制限なモータリゼーションの拡大であり、環境破壊、周辺住民の生活・健康被害を与え続けようとする計画だ。
 空港整備は千六百六十六億円。空港の設置・整備・管理のための空港整備特別会計が本年度比一五%も増額して五千七百二十二億円となった。アジア国際空港建設競争の大幅な遅れを取り戻そうと重点配分をしている。逆に、コスト削減を優先にした航空機の老朽化と整備不良、過密ダイヤによって航空機事故が多発しているにもかかわらず、安全対策費が前年度二三%増だけの百二十五億円だ。
 羽田空港に4本目の滑走路を整備する再拡張事業のために千六百十九億円も計上し、成田空港とセットで国際空港化のために予算額を膨らませた。
 関西国際空港二期工事の施設整備事業に百十四億円、用地造成費などを含め二期事業全体が百十九億円だ。さらに赤字続きのため経営基盤を安定させるための補給金九十億円も継続する。地盤沈下が続き、雪だるま式に工事費が膨らみ続け、無駄な事業シンボルとなっている。関西出身で公明党の北側国交相と関西財界の連係プレーで多額の予算を実現したのである。利権だらけ、関西財界のための無駄な空港はいらない!
 成田空港関連予算は八億三千五百万円で滑走路延長と新誘導路工事、五一号トンネル化工事事費は予算化しなかったが、暫定滑走路の北側延伸に向けた工事着手の一環として管制塔調査費や施設費をつけた。東峰住民と北側延伸による航空騒音の被害を受ける住民の抗議を無視し続ける国交省・空港会社を許してはならない。
 地方空港の整備は、反対派の土地を強制収用で強奪することをねらっている静岡空港建設、深刻な環境破壊につながる新石垣空港(沖縄 県)の用地取得費、美保飛行場滑走路着工(鳥取県)などに四百十六億円となった。すでに航空業界の熾烈な競争によって地方空港路線の撤退が相次いでいる。この現実を直視するのではなく、族議員・ゼネコン・地元ボス・官僚らが一体となって、かつての第六次空港整備(一九九〇年代)と全国総合開発政策の一県一空港にしがみつき、利権獲得を続けている。地方空港の赤字は必至であり、ただでさえ破綻状況にある地方自治体財政を直撃し、そのツケを県民に押しつけている。無駄な地方空港建設のための予算はいらない。
 名古屋、大阪港など主要な港湾をスーパー中枢港湾と指定し、対前年度比一・四倍の三百八十一億円の整備予算を計上した。アジアの港湾建設競争に負けまいと、二十四時間稼働のコンテナターミナル整備事業の拡大計画だが、そもそも貨物コンテナ船が従来よりも多く入港するという根拠があいまいであり、誇大な需要予測を前提にしている。乱開発・環境破壊プロジェクトをストップさせなければならない。
 整備新幹線建設費は〇五年度と同額の七百六億円も計上した。「政府・与党申し合わせ」(〇四年十二月)の政治決着で北海道の新青森│新函館(北海道)、東北の八戸(青森)│新青森、北陸の長野│金沢、九州・鹿児島ルートの博多(福岡)│新八代(熊本)を優先的に配分した。ほぼ族議員・地元ボス・ゼネコンの要求に応えた内容となっている。まさに利権にまみれた新幹線工事であり、多額な税金をつぎ込むことに反対していかなければならない。

「戦争国家」づくりを強化


 防衛関係費は四兆八千百三十七億円。四年連続で削減したなどと言っているが、実態は、米ブッシュ政権の「対テロ」グローバル戦争戦略に参戦するために巨額な予算が続いている。とりわけ、その柱であるミサイル防衛(MD)関連予算を本年度比二百一億円増の千三百九十九億円も計上した。米国から購入する海上配備型迎撃ミサイル(従来型SM3)は三十六発だ。
 そして、安全保障会議(〇五年十二月)でミサイル防衛(MD)の次世代迎撃ミサイルを米国と共同開発に入ることを決定し、開発経費として三十億円を盛り込んだ。今後、日本側は九年間で約千百七十億〜千四百五億円をつぎ込むことも合意している。ミサイル防衛(MD)開発を突破口にして大量殺人兵器を保持することをねらっているのだ。
 また、政府は、共同開発によって米国から第三国への供与や目的外使用の可能性があるため、「対米武器技術供与」に関する交換公文を改定する方針を決めた。軍需産業界が要望してきた武器輸出三原則のなし崩し的緩和に踏み出したのである。兵器輸出の「自由化」をめざし、軍需産業の巨大化を応援していくことの現れだ。防衛族議員による防衛庁の「省」昇格運動も加速している。
 米軍のグローバル戦争戦略にもとづいて、陸上自衛隊「中央即応集団」新設にも予算がついた。米軍と一体となって海外派兵を展開していく司令部は、当面、暫定的に陸自朝霞駐屯地に設置するが、キャンプ座間の米陸軍新司令部と共同作戦を行っていくために移転する予定だ。
 米軍駐留に対する「思いやり予算」(在日米軍駐留経費負担)は、二千三百七十八億円。在日米軍再編協議の遅れもあって、二年延長の新特別協定を結んだ。予算は、基地で使う電気、ガス、水道の光熱水料(〇六年度予算で二百四十九億円)、日本人従業員の賃金(同千百三十八億円)。また、米軍再編による沖縄海兵隊一部のグアム移転など諸費用を日本側が負担するために一般の防衛予算とは別枠で「米軍再編枠」の新設も検討中だ。このようにグローバル日米安保体制の強化にむけて予算を重点的に配分している。
 治安弾圧対策費として、特殊部隊(SAT)増強、生体認証システム導入をはじめ入国管理体制強化など対テロ展開のために二百四十五億円を計上した。
 政府開発援助(ODA)予算は〇五年度予算から七千五百九十七億円とした。政府は円借款、無償資金協力、技術協力の三機能に分かれたODAの企画立案を統括する新組織を首相直轄で設置しようとしている。「戦略的なODAの活用」と称して日本企業の進出と権益システムを維持しつつ、「対テロ」グローバル戦争戦略に位置づけて再編しようとしているのだ。その実行としてインドネシア、フィリピンに対し、テロ対策費用を無償資金協力として行おうとしている。民衆弾圧のための資金援助を止めろ。
 環境とエネルギー関連予算は、地球温暖化対策や廃棄物問題などに対処するために重点的な配分が必要となっているが、前年度九億円減の千百二十五億円となった。危険な原子力開発に対しては、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の関連経費に約二百二十億円も計上しているように、世界的な開発中止の流れに逆行した政策を押し進めている。

新自由主義路線との闘いを

 〇六年度予算案作りにあたって、小泉「構造改革」の司令塔であり、日経連会長奥田ら財界などが参加している経済財政諮問会議は、すでに〇五年八月段階で具体的な目標額を提示し、増税、社会保障費の抑制、公務員の総人件費削減を柱とした行革推進法制定、都市重視の巨大プロジェクト、国債大量発行などの枠組みを打ち出していた。政府予算は、経済財政諮問会議が作成したシナリオを土台にして、ほぼ忠実に作り上げたと言える。政府は、「二〇一〇年代初頭に国・地方の基礎的収支の黒字化」などと強調しているが、今後も経済財政諮問会議の主導で各省庁官僚らを統制していく手法をとりながら、民衆の生活破壊にむけた予算作りを続けていこうとする。そして、財界らが強い要望をしている消費税増税路線に突入しようとしているのだ。これ以上、財界の意向を反映した予算作りをさせてはならない。
 この一月の経済財政諮問会議では、中期的な経済財政運営にむけて「構造改革と経済財政の展望」(二〇〇五年度改定)を明らかにし、十五兆円の歳出削減と消費税増税を含む税制改革などを列挙し、より反民衆的、悪質な指針を打ち出した。この政策をポスト小泉にも継承させ、〇七年度予算案に反映させていこうとする策動を監視し、批判していかなければならない。財務省は、例年通り、「後年度影響試算」をまとめ、〇六年度予算案のままの制度、政策を続ければ、〇七年度以降、国債が再び三十兆円を突破してしまうと恫かつし、消費税増税を行えと主張している。消費税増税キャンペーンは、ますます強化していくだろう。大衆増税に反対し、大企業に対する法人税増税、高額所得層に対する税率アップを主張していかなければならない。
 耐震偽装問題、ライブドア事件、官製談合事件、東証システムの脆弱など新自由主義的構造改革路線の矛盾が一挙に噴き出している。日本資本主義防衛のために小泉政権は必死だが、諸問題を蹴散らしながら予算案を早期に強行採決し、さまざまな反動法案の成立をねらっている。資本の利益のために貫かれた政府予算に反対し、民衆のための予算に組みかえさせていかなければならない。(遠山裕樹)


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