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世界社会フォーラム2006をどう考えるか       かけはし2006.1.16号

多極的開催という挑戦

エリック・トゥサンとセルジオ・フェラーリが対談


 次の世界社会フォーラムは、多中心的なものになる。二〇〇六年には、カラカス(ベネズエラ・ボリバール共和国)、バマコ(マリ)、カラチ(パキスタン)で「地域分散的に」行われる。

 セルジオ・フェラーリがUNITE(協力と連帯のためのスイスNGOプラットフォーム)の協力を得てエリック・トゥサンと対談した。

優先課題と共
通軸を決める


 世界社会フォーラム(WSF)の潜在的可能性を理解するには、まず地球的規模での社会運動の現段階を、フォーラムと動員の間の密接な関係を踏まえて評価する必要がある。
 「その点では、私は非常に楽観的です。二〇〇五年の動員の増加は、過ぎたことです」。エリック・トゥサンは、こう語った。彼は、ベルギーの歴史学者で、活動家であり、ベルギーに本拠を置く第三世界債務帳消し委員会(CADTM)の代表である。彼はWSF国際評議会(調整機関)のメンバーでもあるが、次の段階では「グローバル・レベルで市民のアジェンダ(議題)の優先順位を明確に定義することが必要である」と考えている。この過程はすでに進行中である。あるいは、少なくとも、始まっている。

――ポルトアレグレでの第五回世界社会フォーラム(二〇〇五年一月、ブラジル)から一年たちましたが、国際的社会運動の雰囲気はどんな状態ですか。

 二〇〇五年には、二〇〇三年半ばから二〇〇四年後半にかけての大衆的動員の沈滞からの重要な復活がありました。実際、次のWSFは、二面的な世界像の中で行われるでしょう。一面では、世界は非常に暗く重苦しいものです。イラクにおける残虐、引き続くパレスチナの過酷な抑圧、世界のいたるところでの集団的団結に対する企業や政府の断固たる攻撃、大量失業、経済的・社会的・文化的権利のへの攻撃、などです。一言で言えば、新自由主義的攻撃は、そのイデオロギー的基礎については世界中の人々の信用を失っているにもかかわらず、進撃を続けています。
 もう一つの面は、希望に輝いています。社会的な市民の闘いが重要な復活と広がりを示し、欧州憲法条約のようなとくに重要な政治的プロジェクトや、米州自由貿易協定(FTAA)のような経済的プロジェクトを阻止するという強い力を示しました。二〇〇五年は、疑いなく、社会的運動にとって二〇〇四年よりも積極的な興味深い展望のなかで終わろうとしています。

――それでは、この流れの中で、二〇〇六年一月のWSFの多中心的セッションの主要な目的な何でしょうか。

 まず第一に、二〇〇五年冒頭の、十五万人が参加したポルトアレグレにおける第五回WSFの成功を思い起こすことが重要です。また、二〇〇五年六月のバルセロナにおける第一回地中海社会フォーラムには、アラブ世界と多くの欧州地域から千を超える代表が参加ました。
 第六回WSFは、これまで想定されていなかった挑戦課題を提起しています。二〇〇四年に、「世界社会フォーラム・プロセス」の高揚のリズムは、国際評議会の中で論争を引き起こしました。多くの一国的および大陸的フォーラムや種々の運動(CADTMを含む)の関係者は、WSFの開催は頻繁すぎ、WSFの開催は隔年にするのが望ましいと考えました。最終的には、二〇〇五、二〇〇六および二〇〇七年は毎年の開催を維持するが、二〇〇六年には複数の開催地に分散化することで合意しました。

ポルトアレグレ
から三つの大陸へ


――それで、多中心的フォーラムが、二〇〇六年一月にカラカスとバマコで、そして数か月後にカラチで開催されるわけですね。

 そのとおりです。しかし、やはり、過重な負担を避けることにはならず、すべてのWSF関係者は、二〇〇六年前半はかえって早いペースで強い圧力を受けることになるでしょう。一月には、一月十九日から二十三日までバマコ(マリの首都)で開催予定のフォーラムを準備する北アフリカ・プレフォーラムが行われます。
 カラカスの集会では、ベネズエラのボリバール主義革命の過程に関心が集まるでしょう。第三の分散化セッションはその数か月後にカラチ(パキスタン)で開催されますが、その前に一月にラホールで全国準備会議が行われます。
 WSFのパキスタン準備担当者は、カシミール地方での最近の地震の後、これらの予定を数カ月遅らせざるを得ませんでした。東南アジアでは他の活動も計画されています。そして、四月の終わりから五月の初めに、第四回欧州社会フォーラムがアテネ(ギリシャ)で行われます。つまり、これからのプログラムは非常に忙しいのです。

――多中心的過程の最も大きな挑戦課題は何ですか。

 主要な目的は、地域的な力学を発展させながら、細分化を回避することです。この点では、二〇〇六年は明確なリスクが存在します。なぜなら、一つの開催地で開催されされないので、集団的行動の明確化を進める必要性が差し迫っていると感じられたときに、運動にとって意見を交換し行動の優先課題を議論して決める機会が存在しないことになるからです。

団結の分散化を
避けることが必要


――オプションの明確化と分散化過程の間にある種の矛盾が生じることが予想されますか。

 それは確かに起こり得ますが、社会的運動の力学が広がり、その過程を統一することが優先されるでしょう。十月のジェノバにおける国際会議に出席して、私は非常に楽観的な感じを持ちました。世界の至る所からの多くの活発なネットワークや運動体が出席しました。この中には、ビア・カンペシーナ、CADTM、フォーカス・オン・ザ・グローバルサウス、ブラジルのCUT(統一労働者センター)、ATTACの複数のグループ、欧州の労働組合が含まれています。われわれはこの二、三年の行動を総括し、将来の優先順位をある程度明確化することにおいて前進しました。すべてのことが、これらの不可欠な基軸をえがきあげる広範な協議の過程を指し示しています。

――このような異例の手続きを通じて、WSFの調整機関である国際評議会は、この過程全体を実際に掌握し続けることができるのですか。

 国際評議会の次の会議は、二〇〇六年三月に行われますが、そこで最初の三つのフォーラムがどのように行われたのかを総括します。事態に立ち遅れないようにするのが困難かもしれないというリスクはありますが、新しい挑戦課題に応えるために必要な努力について、われわれは十分承知しています。

三つの集まりに
は共通の収束点


――これらの分散化されたフォーラムは、どのようになるでしょうか。各フォーラムは独自のプログラムを持つのでしょうか、それともすべて同じ議題で行われるのでしょうか。

 これらの三つの大きな集まりの中心テーマを分析してみると、明確な収束点が存在します。この意味で、政治的な細分化のリスクについて私は心配していません。たとえば、二〇〇五年のポルトアレグレ・フォーラム以来の重要な基軸である「政治権力と社会的解放のための闘争」は、三つのフォーラムすべてに存在しています。さらに、最大の、最も重要な挑戦課題は、共同行動の優先順位を決めることです。これは新しいことではありません。WSFの第五回フォーラムの著名知識人グループおよび社会運動集会が提出した「ポルトアレグレ宣言」でも同じ必要性が強調されました。
 二〇〇五年にポルトアレグレで、われわれは共同行動の日程に関して合意しました。今回も、優先順位を決めることが絶対に必要です。十五も二十もの課題ではなく、二つか三つの課題に絞る必要があります。WSFの構成メンバーの大部分は、非常に多様ですが、これが必要であるという点では一致しているという印象を私は持っています。従って、この点では私はまったく楽観しています。

なによりも優先課
題に関する論議を


――何が優先されるのでしょうか。

 たとえば、戦争への反対です。イラク攻撃何周年に大きな国際的動員を行うことによって表現することができます。もう一つの共有する課題としてパレスチナ人民連帯をこれに加えることができます。アフガニスタン占領反対や、コロンビア計画のようなその他の戦争挑発行為反対も加えることができます。おそらく二〇〇六年三月に、これらの動員の統一行動日を決めることになるでしょう。
 債務帳消し運動は、もうひとつの不可欠の基軸であり、二〇〇五年九月のハバナ集会で広範に議論されました。これは高度に象徴的な問題であり、同じ日を期して複数の国の世界銀行や国際通貨基金(IMF)の構内の座り込みを組織することができるような問題です。さらに、すべての兆候が示唆しているように、二〇〇五年十二月に香港で開催される世界貿易機関(WTO)の閣僚会議は、再度失敗に終わり、この制度の調整の下での交渉の継続に反対する動員は社会運動の結集点になるでしょう。
 当面、これらは提案に過ぎません。だからこそ、われわれは、世界社会運動全体が共有する二つ、三つまたは四つの優先課題を定義するための広範な討論の過程が必要なのです。

社会的運動のダイ
ナミックな上昇


 エリック・トゥサンにとって、二〇〇五年は地球的規模における社会運動のダイナミックな上昇の年であった。
 「国際機関に対する大衆的動員が再び起こりました。二〇〇五年七月初めには、スコットランドにおけるG8に対するデモに二十五万人が参加しました。これは二〇〇一年のジェノバに匹敵する数です。九月の終わりには、ワシントンにおいて、世界銀行とIMFに反対する大規模な動員がありました。同時に、米国内では数千人のイラクにおける戦争に反対するデモがありました。また、七月と十月に、ジュネーブにおいて反WTOのデモ、十一月初めにはマルデルプラタ(アルゼンチン)のFTAA反対の大規模なデモと人民サミットが行わました」。
 これらの運動と並行して、エリック・トゥサンは次のように報告した。
 「最近何カ月かの間に、いくつかの出来事が、新自由主義プロジェクトが深刻な正統性の危機を迎えていることを示しました。米国におけるジョージ・ブッシュの失敗、すなわちルイジアナを襲ったハリケーン災害への対処の失敗、イラクにおける完全な軍事的失敗、反対派の大規模なデモを挑発することなく大統領が外国を訪問することができなくなったという事実。英国およびドイツにおける『ブレア主義』の失敗、ブラジルにおける『ルラの道』の失敗、などです。これらの要素は、新自由主義の危機の一面です」。
 ラテンアメリカについては、エリック・トゥサンは、いくつかの積極的な点を強調している。それらは希望をもたらす要素である。「サパチスタの新しいイニシアティブ『別のキャンペーン』、十二月のボリビアの選挙でエヴォ・モラレスが勝利する可能性とボリビアで進行中の天然資源の回復に関する議論、ルシオ・グティエレス大統領を打倒したエクアドルにおける動員、そしてもちろん、現在ベネズエラで人民大衆の支持を受けて進行中のボリバール主義的プロセスがあります」。
 ヨーロッパに関しては、彼は次のように述べた。
 「三つのことが重要です。第一は、労働者の『古典的な』社会的闘争の拡大(フランス、ベルギー、イタリア、など)です。第二は、いくつかのフランスの都市の郊外プロレタリア地区で勃発した暴動です。これは完全に正当なものであり、種々の社会運動や政党は立場を再検討することを迫られ、これについて多くを語るだけでなく行動を起こすことを迫られました。これは世界社会フォーラムにもかかわりがあります。
 最後に、フランスとドイツの国民投票によって現出した欧州憲法条約草案プロジェクトの完全な失敗です。欧州労働組合連合(ECTU)とともに闘われている重要な『ボルケシュタイン指令』反対闘争も忘れてはなりません。この指令は、労働市場における欧州連合内の労働者間の競争を強めることをねらったものです」。
 エリック・トゥサンは、次のように結論付けた。
 「今年は市民の闘いの年であり、社会的動員がよみがえった年でした。それはさまざまな仕方で、また運動の性格から、いくつかのアジアやアフリカの国々にも影響を与えました」。


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