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                           かけはし2006.10.30号

国家主義と新自由主義の教基法改悪・教育再生会議許すな!

11・8ヒューマンチェーン、11・12全国集会へ


競争主義貫く
教育再生会議

 安倍政権は、改憲を射程にした前段の攻撃として{準憲法}である教基法の改悪をめざしている。同時に、新国家主義とセットの新自由主義的教育改革のイニシアチブ装置として「教育再生会議」をスタートさせた(10月18日)。小泉政権が官邸主導によるトップダウン方式によって暴力的に郵政民営化に突進していったように、安倍は「公教育改革」と称して派兵大国化に貢献する教育再編攻撃に着手した。
 日本経団連の「教育改革の足取りは遅く、全体としては十分な成果はあがっていない」「教育の質の向上にむけたダイナミズムを生み出していけ」(「義務教育改革についての提言」(06年4月)という叱咤激励に乗じて、安倍は教育再生会議を設置したのである。
 十七人の委員の中でも安倍のスポンサーである「四季の会」(財界人グループ)のヘッドであり、ブレーンでもあるJR東海会長の葛西敬之、トヨタ自動車会長の張富士夫は、愛知県に全寮男子校「海陽学園」を設立しエリート学校作りの実験を行い、日本経団連の提言の具体化という階級的任務として参加した。さらに、教基法改悪運動の中軸であった教育改革国民会議の委員であった浅利慶太(劇団四季)、バウチャー制度を通した学校間格差と教員の成果主義給与を主張する渡辺美樹・ワタミ社長、規制緩和推進の白石東洋大教授、学校評価制度導入をめざす門川大作・京都市教育長などが委員になった。
 そして、極め付けがこの会議の事務局長の山谷えり子首相補佐官だ。山谷は、愛国心教育と家族主義を掲げ、ジェンダーフリーバッシングを先頭で展開し、首相補佐官の看板を掲げて「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」の連中とともに靖国神社秋季例大祭に集団参拝(10月18日)している。この靖国参拝は、今後の教育再生会議の方向性のメッセージだと言える。
 安倍の取り巻きで固めた教育再生会議路線は、教基法改悪を前提にした新自由主義的教育再編の全面化であり、具体的には教員免許の更新制度の導入によって国家に忠誠をつくす教員作り、差別・選別・競争主義の推進に貫かれた学校選択制、国家主義と統制のための学校評価、教育予算削減と差別予算配分化の一環である教育バウチャー制度などである。結論的に提言を次々と出していくのであろう。

新自由主義的
教育再編が加速


 これまで政府による教育政策の提示にあたっては、文科相の諮問機関である中央審議会の答申を受けてから文科省官僚が具体化してきたが、この手法では安倍と財界の意向が薄められてしまい、「改革」テンポが遅いという「欠点」を克服するために教育再生会議の提言を優先して押し出していくという計画なのである。安倍と官邸は、とりあえずの第一ステップとして文教族議員や文科省官僚との摩擦緩和のために十七人の委員のうち中央教育審議会の委員・経験者を七人入れざるをえなかった。
 このことは伊吹文科相も認めており、「再生会議と中教審が衝突することがないような姿勢で臨みたい。経済財政諮問会議は政治主導で大きな方向性を提示し、それに従って各省庁が仕事をしてきた。同じように、再生会議で大きな枠組みを作り、中教審で実務をこなしていくことになる」と述べ、教育再生会議を推進力として教育再編攻撃のスピードを加速していくということなのだ。
 これは明らかに教基法改悪の先取りである。改悪法案の第十六条「教育行政」では、教育への国家・行政権力の介入を禁じた「教育は、不当な支配に服することなく」の文言を残しつつ、具体的実施に関して「教育に関する施策を総合的に策定し、実施しなければならない」と明記した。この条項によって、政府が教育の標準目標を設定し、自治体・学校間を競争させ、全国学力テストなどを通して格付けをしていくことをねらっている。そして、第十七条で「教育振興基本計画」の策定権限を政府に義務づけさせている。国家による教育現場への直接介入と統制、予算措置などを行使していくことにある。教育再生会議は、この第二ステップを射程にして動き出していることは間違いない。
 このプロセスには、子ども、親、教育労働者の意見を一切排除し、非公開で運営していくと言っているように、国家としてトップダウンでやり切るということなのである。教育破壊による被害者を膨大に作り出そうとしている。教育再生会議は、地方選、夏の参院選向けとして来年一月に、すでにできあがっている教育破壊シナリオどおりに中間報告を出し、六月までに予算化が必要な施策をまとめるというスケジュールだ。

「不適格」教員
の選別的排除


 さらに教育再生会議が、とりわけ力を入れようとしているのが、教員の差別・選別・排除のための免許更新制など教員評価の課題だ。中教審は、七月に十年ごとに講習を受けないと免許が失効する仕組みを導入すべきだと答申した。答申は、わさわざ「導入目的は不適格教員の排除ではない」と明記したが、本音を正直に出してしまった。
 安倍は、もっと露骨に、「ダメ教師には辞めていただく」(『美しい国へ』文春新書)と叫んでいるが、教育現場の過労過密労働の実態、時間的余裕を持って丁寧に生徒・親とのコミュニケーションがとれない状態、競争と選別教育の強化による弊害、「いじめ」多発化とメンタル疲弊の慢性化などに触れず、国家が認めるような「やる気と能力のある教員」を優遇しなければならないと主張している。
 すでに日本経団連は、「これからの教育の方向性に関する提言」(05年1月提言)で「小中高等学校の教員養成、研修制度の見直し」の項目を設けて、教基法改悪を主張したうえで「教員としての資質を欠く場合には、現行の不適格教員に対する措置に加え、教員免許更新制により、教職以外の選択を行うよう促すべきである」と突きつけていた。また、この提言とセットで「教職員組合の本来のあり方への回帰」と称して、教育労働者の組合活動・団結権・表現の自由の否定を主張していた。国家が認定する「不適格教員」の排除とは、ここまで対象にするということなのだ。
 これを集約した指針として教基法改悪法案の第九条の「教員」の項目がある。「教員は、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない」と国家に奉仕することを強制し、従順であれば「教員の身分は尊重され、その待遇の適正が期せられるとともに、養成と研修の充実が図られなければならない」と明記している。
 すなわち、教育の全国一律の競争主義、差別・選別主義を促進させていく担い手となることを強要しているのであり、そのために「教員免許更新制の導入」、「教員評価の改善・充実」、新学校評価制、校長権限の拡大、教育委員会制度の強化、教員給与の成果主義導入など新たな管理システムをめざし、義務教育制度の骨格の解体・再編を行えと強調しているのである。

究極の弱肉強
原理を導入


 教育再生会議の路線的提示を安倍は、『美しい国へ』の第七章『教育の再生』である程度の骨子を展開している。「日本の国柄をあらわす根幹が天皇制である」「天皇は『象徴天皇』になる前から日本国の象徴だったのだ」と天皇制国民統合の側面を動員し、新自由主義に基づく教育の差別・選別・競争主義・市場化にむけたイギリスのサッチャーの強引な教育改革(一九八○年代)を導入していくべきだと強調する。
 なぜならば安倍は、サッチャー教育改革の実態が教育機会格差拡大、学生の放校、退学処分の続出、抵抗する教育労働者の大量排除だったことを十分に知っているにもかかわらず、全く触れず、それらを積極的に肯定しているからにほかならない。究極の弱肉強食競争原理を教育現場に持ち込むことをねらっているからだ。そのうえで@「教育の目的は、志ある国民を育て、品格ある国家をつくることだ」と規定し国家主義的教育の強化をめざすA全国一律的な学力調査、学校のランクづけと競争主義の導入B教員の国家忠誠心作り、国の監査・監視など権限強化システムなどの構築を掲げている。
 安倍の教育政策は、このように新国家主義と新自由主義がセットとなっているところに一つのポイントがある。新国家主義については、彼自身が所属してきた天皇制と侵略戦争を賛美する各種団体の政治主張をみるでけでも明らかだ。日本会議国会議員懇談会、神道政治連盟国会議員懇談会事務局長、日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会事務局長を担ってきたが、そのイデオロギー的確信犯としての姿が、より浮き彫りとなってくる。
 すでに見てきたように安倍は財界の意向をバックに自覚的に教育提言を行っている。日本経団連の「これからの教育の方向性に関する提言」と「義務教育改革についての提言」を下敷きにしていることで明らかだ。
 そもそも財界は日本資本主義のグローバル化にともなって世界的競争に勝ち抜くために高コスト労働力雇用構造の解体・再編にともなって打ち出した日経連「新時代の『日本的経営』」(一九九五年)路線と合わせて、これまでの画一的教育政策の解体と再編、公教育のスリム化と複線型学校教育など新自由主義的教育改革の転換を求めてきた。そのために官邸主導によるトップダウン方式で政策を推進していくためのイニシアチブとして教育再生会議を設置させたのである。その第一ハードルの総仕上げとしてあるのが教基法改悪なのだ。

天皇主義右翼
も独自の動き


 最後に確認しておかなければならないのは、天皇主義右翼らの「独自」運動の動向だ。教育再生会議と連動して安倍のブレーンであり、「新しい歴史教科書をつくる会」の元会長の八木秀次が日本教育再生機構を設立している。この団体は、「安倍政権の教育再生政策の趣旨に賛同し、民間の立場から実現に向けた支援を行っていきます」と主張し、十月から教育再生民間タウンミーティングを全国的に開催する。
 協賛団体は、天皇制賛美と「日の丸・君が代」愛国心教育を押し進めてきた全日本教職員連盟、全国連合退職校長会などだ。八木は、安倍のブレーンとして「歴史教科書作成など伝統文化の継承、道徳教育の充実、性差否定教育や過激な性教育に反対し、家族を再興する」などと述べ、圧力をかけていくことを明らかにしている。そして、同志である山谷首相補佐官との連携プレーのもとに教育再生民間タウンミーティング全国運動、愛国心・教基法改悪をバックアップしていこうと策動を強めている。
 安倍もコアメンバーである日本会議は、六月の総会で教基法政府案に対して「愛国心」と「宗教的情操の涵養」の明記、「不当な支配」の文言削除、「民間憲法臨調」とともに「改憲大綱」を作成し、教基法改悪・改憲運動を強化していくことを確認している。
 こういった天皇主義右翼の改憲・教基法改悪運動の活性化の延長上において右翼テロの強行を計画的に設定してきたことも過小評価してはならない。監視と警戒態勢を堅持しながら、安倍政権の野望を暴き出し、教基法改悪反対闘争とともに教育再生会議への批判を強めよう。
 安倍政権は、マスコミに「教育破綻」状況を止揚するものとして教育再生会議への「期待」ムードを煽らせている。この間の全国的な「いじめ問題」多発による表面化によって、これまでの教育政策の破産が実証されているにもかかわらず、その欠陥と問題を掘り下げるのではなく、責任を棚上げにし、一切の問題を現行教基法と教育労働者に押しつけることによって逃げ切ろうとしている。そして、先の通常国会において衆院の教基法改悪のための特別委員会で五十時間の審議を根拠にして、教基法改悪法案の強行採決をねらっている。強行採決阻止・廃案をめざして国会包囲を作り出していこう。「教育基本法の改悪をとめよう!11・12全国集会」(日比谷野音/午後1時、全国連絡会)に結集しよう!
(遠山裕樹)


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