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中教審答申│憲法と教育基本法改悪の先取りを許すな    かけはし2006.0101号

資本の競争と戦争を勝ち抜く人材育成の新自由主義教育反対


義務教育費国庫負担金の削減


 小泉政権は、二〇〇五年十一月三十日、「三位一体の改革」の一環として義務教育費国庫負担金の国庫負担率を現行の二分の一から三分の一に引き下げることを強引に決定してしまった。まさに新自由主義路線にもとづく教育財政基盤の破壊が本格的に始まった。
 義務教育費国庫負担金は、憲法と教育基本法を根拠に小中学校の教職員の給与の半分を国が負担(二・五兆円)してきた。しかし、政府は、自ら作り出してきた財政破綻の責任を棚上げし、地方団体(全国知事会、全国市長会、全国町村長会、全国都道府県議会議長会、全国市議会長会、全国町村議会議長会)の義務教育費国庫負担金制度廃止の主張をも利用しながら、継続して○七年以降の全廃をめざしている。
 この義務教育費国庫負担金削減・全廃攻撃は、三十人学級の実現など最低限の教育条件の向上が求められているにもかかわらず、教職員配置の格差・不十分な状態を拡大させるものだ。明らかに教基法第三条の教育の機会均等の原則の違反であり、憲法第二六条「教育を受ける権利」、第一四条「法の下の平等」の否定だ。まさに憲法改悪と教基法改悪の先取り的攻撃なのである。
 この攻撃と合わせて二〇〇六年度予算の地方自治体に対する国庫補助負担金のうち児童手当や児童扶養手当、介護・福祉関連の施設整備費など六五四二億円を削減することも決めてしまった。そもそも国家財政は、すでに○五年度末の国債残高が五○八兆円、国と地方をあわせて長期債務残高が七四四兆円に達してるほどの破綻状態だ。この危機に対して政府は、軍事費を聖域化し、無駄な公共事業を止めるのではなく、新自由主義路線の貫徹として地方財政削減政策の強化を選択してきた。
 〇二年六月に「経済財政運営と構造改革に関する基本方針二〇〇二(骨太の方針)」をスタートさせ、「三位一体改革」と称して、〇六年度までに@三兆円の税源を政府から自治体に移すAその原資として四兆円の補助負担金を削減するB地方交付税の削減に踏み出した。その後、骨太二〇〇三(〇三年六月)で補助金四兆円の削減を明記し、骨太二〇〇四(〇四年六月)で三兆円の税源移譲明記した。さらに地方団体に国庫負担補助金削減の具体案とりまとめを要請し、義務教育費国庫負担金(八五〇〇億円)を含む約三兆二千億円の補助金廃止案を提出したのである(〇四年八月)。
 地方団体は、小泉の新自由主義的構造改革に支持するスタンスで対応し、削減案の一つに義務教育費国庫負担金を入れた。○六年度予算で中学校分を廃止し、以降に全廃する。さらに税源移譲し、一般財源化するというものだった。義務教育費国庫負担金だと使用目的が決まっているため、財政危機の穴埋めに使えないから一般財源化することによって自由に使えるようにするのがねらいだ。
 しかし、政府は国庫補助負担金を縮減しつつ、それに見合った税源移譲もするなどと言っているが、地方交付税削減が前提のため、必然的に税収が少なく財源不足の自治体と財政力がある自治体の格差が拡大してしまう。事実、交付税は二〇〇四年度に大幅削減され、この圧力が強まっていかざるをえない。どの自治体も財政危機にあるから、行政サービス低下、行政改革、人員削減を強めていくしかない。この財政的しわよせとして、少子化傾向だから教職員も減らしていけばいいという安易な発想で教育条件の悪化に踏み切り、義務教育費国庫負担制度の廃止をターゲットにしているのである。

6・3制教育制度の改悪をねらう

 この制度の廃止をねらう小泉政権は、憲法・教基法改悪にむけて先行した既成事実の積み上げとして、文科相の諮問機関の中央教育審議会に義務教育特別部会を設置し、〇五年秋までに制度廃止についての答申を出させるとともに小泉支持派の地方団体三委員を送りこむことで妥協していた(○四年十一月)。
 しかし、中教審の委員多数派は、現行の義務教育費国庫負担制度を前提としたうえで新自由主義的教育改革と新国家主義をミックスさせた路線を選択している。さらに文部科学省や自民党文教族は、義務教育費国庫負担制度の廃止が利権と天下り構造の再編・整理につながり、国家主義的人材育成路線の土台を崩す可能性があるため反対を表明し、小泉ら制度廃止推進派のキャンペーンに対抗して制度の現状維持にむけて運動展開を強化していった。
 中教審多数派、文科省官僚、自民党文教族の「反撃」に直面した小泉は、構造改革のブレーキにつながると危機感を現し、文科省に対して「地方案を尊重しろ」と圧力をかけ、さらに〇五年九月、特別国会の所信表明で「三位一体改革」について「地方の意見を真摯に受けとめ、年度内に必ず実現」すると強調せざるをえなかった。だが、○五年十月二十六日に中教審は、現行制度「維持」を明記し、「新しい時代の義務教育を創造する」と題する最終答申をまとめた。
 この中教審答申に対して小泉政権は「国庫負担金削減、税源移譲は方針として決まっている」と反発し、義務教育費国庫負担金二兆五千億円のうち、地方団体が求めている八千五百億円の負担金削減も実現させる対応をしたのである。小泉首相は廃止派として安倍官房長官を統制し、財務省、総務省、地方団体などの制度廃止推進派、文部科学省官僚と文教族議員、新国家主義勢力などの現状維持派による綱引きを繰り広げたあげく、結局、国庫負担率を三分の一に引き下げ、制度を維持することで決着した。これはとりあえずの妥協の産物であり、今後も制度廃止にむけた動きが加速していくだろう。
 また、財務相の諮問機関である財政制度等審議会が「教職員人材確保法」の廃止を決定(十月二十日)し、教職員の大幅な削減を主張している。教育現場に対して財政破綻のみの観点から犠牲転嫁し、危機を乗り切ろうとするものでしかない。教育労働者への超過密労働、成果主義と管理・統制の強化に追い込んでいこうというのだ。
 憲法改悪と教基法改悪の先取り的攻撃である義務教育費国庫負担金制度の廃止策動を、これ以上許してはならない。なお、制度廃止派との対抗関係を発生させながら矛盾を拡大させている制度現状維持派の動向にも警戒しなければならない。日本会議と日本会議国会議員懇談会は、教基法改悪ととも義務教育費国庫負担金削減に対して「公教育は本来『日本国民』育成の観点より国の責任で行うべきものだから制度を堅持せよ」と新国家主義の観点から制度維持を主張しているからだ。このような局面的矛盾に対して小泉政権が強権的に突破していくのか、溝が深まっていくのかを分析しつつ、教育財政削減攻撃反対の陣形を構築していかなければならない。

教職員の団結権・組合活動の否定

 中教審答申は、小泉構造改革のセールスポイントであった義務教育費国庫負担制度廃止を拒否し、現状維持を柱としているが、「義務教育の構造改革」と称しているように、大枠としてグローバルな戦争と資本大競争を勝ち抜く人材育成という国家戦略と財界の要求(日本経済団体連合会「これからの教育の方向性に関する提言」○五年一月)に応える内容に貫かれている。
 答申の第一は、これまでの「ゆとり教育」路線に対して、より全国一律の競争主義、差別・選別主義を促進させていくために「全国的な学力調査の実施」と「学習指導要領の見直し」を強化していくことを提起している。第二に「教員免許更新制の導入」、「教員評価の改善・充実」、「主幹」制度(中間管理職)、「スーパーティーチャー」の導入(エリート教員の育成)、新学校評価制、校長権限の拡大、教育委員会制度の強化など新たな管理システムを回転させ、これまでの義務教育制度の骨格を解体・再編を行えと強調しているのだ。
 そのうえで「9年制義務教育学校」の設置、6・3制義務教育制度の改悪的再編にも着手するなど新自由主義と新国家主義的支配・管理・統制システムを全面的に導入しようとしている。
 中教審は、○三年三月に教基法改悪を答申しているが、改悪法案反対運動の高揚によって国会に上程ができていないことに対して「今後、教基法の改正の動向にも留意しながら」(今回の答申)といらだちを現しながら、先行して改悪後の教育現場状況を想定して方向性を具体的に提示したのである。
 この答申のバックボーンとなっているのが、日経連の提言だ。グローバル資本主義を勝ち抜くための新たなナショナリズムの構築を主張し、当面の獲得目標を教基法改悪に設定している。提言は、戦後教育を「学校教育の現場では日本の伝統や文化、歴史を教えることを通じて、郷土や国を誇りに思う気持ち(国を愛しむ心)を自然に育んでこなかった」、「権利には責任と義務が伴うという点を教育現場で教えることは徹底されず、公共の精神の涵養は不十分であった」と総括し、「21世紀の国際競争を勝ち抜き、国際社会貢献」していくために「愛国心」教育の強化を含めた教基法改悪を主張している。
 とりわけ提言の反動的な部分は、「小中高等学校の教員養成、研修制度の見直し」において、国家のために「教員の自己研鑽の強化」の必要性を述べ、その競争に負ける教員ならば排除せよとまで提起していることだ。
 さらに、「教職員組合の本来のあり方への回帰」などと項目名をあげ、「一部には自らの政治的思想や信条を教え込もうとする事例が見られ、これらが長年、教育現場を混乱させ、教育内容を歪めてきたことは否定できない。教職員による組合は、一定の範囲での職場環境、待遇の改善に取り組むという本来のあり方に徹すべきだ」と恫喝し、「勤務時間内の組合活動の禁止」、「就業ルールの徹底」を強調している。つまり、教職員の団結権、組合活動を否定し、新たなナショナリズム形成運動としての「日の丸・君が代」強制を踏み絵とし、反対または抵抗する教員をあぶり出し、処分攻撃を乱発する弾圧と排除をしながら教職員全体を日経連が望む教職員像に統合していくことをめざしているのだ。
 これらの攻撃とセットで財界らは、「新しい歴史教科書をつくる会」を培養し、天皇制と侵略戦争、グローバル戦争に積極的に参戦する自衛隊と国家体制を賛美する教科書をバックアップし続けている。○五年は各地で不採択という反対運動の勝利が実現したが、作る会は運動の継続を表明し、これまで以上に各自治体レベルへの草の根工作を押し進めていこうとしていることも警戒しなければならない。財界らの資金援助があって成り立っている「つくる会」教科書の採択を許してはならない。

警察権力と一体となった都教委の弾圧

 以上のように○五年中教審答申、日経連提言は、一九八九年の「日の丸・君が代」義務化、九九年に国旗・国歌法制定以来、全国的に広げてきた新国家主義的教育再編と新自由主義的教育改革の集約であると言える。だからこそ教基法改悪は、これまでの強引なやり方を継承していくための法的根拠を与え、すなわち「日の丸・君が代」を強制させる業務命令「○三・十・二三通達」をだすまでに至った石原都知事と東京都教育委員会による教育破壊を全国的に波及させてしまうことになってしまうのだ。
 すでに東京都だけではなく全国各地で「日の丸・君が代」の強制、文部科学省による「心のノート」を通した愛国心教育を押し進めることによって、公然と「思想・良心の自由」を保障する憲法第十九条、教育に対する「不当な支配」を禁止する教基法第十条違反を繰り返しているが、こういった教基法憲法改悪との攻防を土台としながら反対運動の取り組みを打ち固めていこう。
 政府・与党は、通常国会に向けて教基法改悪案を上程することを決定した。基本的に改正派である民主党をからめとりながら、改正教基法の審議委員会を超スピードでやりきり、一挙に数の力で成立を強行してくる危険性がある。教基法改悪の強行成立を許さない闘いを全国各地で取り組み、国会を包囲していく闘いに結びつけていこう。教育基本法の改悪をとめよう!全国連絡会が呼びかける全国千カ所行動を成功させ、3・31国会包囲行動によって改悪法案の成立を阻止していこう。
 都教委は、○五年七月に「服務事故再発防止研修」に抗議の意志表示としてゼッケンなどを着用した十人、「専門研修」を受講しなかった一人に対して処分を強行した。さらに、都議会で中村教育長は、十二月八日、これまでの都教委路線を継承し、「新職務命令」によって教職員・生徒に「日の丸・君が代」を強制させいくことを明言した。そして、学校経営・教育内容のチェックを行い、教職員の管理・統制強化のために○六年四月から「都立学校経営支援センター」の設置を決定した。
 このように立て続く高圧的な姿勢は、○五年卒業・入学時での「日の丸・君が代」強制反対のビラ配布・抗議への弾圧を権力と一体となって行ってきたように、○六年も同様の弾圧体制を準備してくるにちがいない。十二・九立川反戦ビラ不当判決をバネにして、公安警察が襲いかかってくることを許してはならない。
 都教委の攻撃に対して、被処分者を中心にして反処分裁判・人事委員会闘争が粘り強く取り組まれている。「日の丸・君が代」強制に反対する被処分者の諸グループ、「つくる会」教科書阻止ネット、七尾養護裁判を支援する連絡会など14団体の実行委員会によって「石原・都教委の教育破壊ストップ! 12・10都民集会」(星陵会館、350人の参加者)が実現した。さらに、都教委包囲・首都圏ネット呼びかけによる「処分撤回!解雇撤回!『日の丸・君が代』の強制を許さない!2・5総決起集会」(○六年二月五日、日、午後一時、日本教育会館)が開催される。これまで奮闘してきた諸グループが新たなスクラムを組み、反撃の闘いが始まっている。東京における反撃戦線を全国に波及させ、教基法改悪阻止・憲法改悪反対の巨大なうねりを作り出していこう!   (遠山裕樹)


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