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新自由主義「構造改革」に反撃しよう           かけはし2006.0101号

利益優先・競争主義に抗し地域・市民とのつながりを

郵政民営化反対闘争の教訓と私たちの課題

非正規雇用労働者と連帯し公共サービスを守る闘いを

郵政ユニオンは全力で闘った

 小泉首相が構造改革の本丸と位置づけてきた郵政民営化法案は、先の総選挙での圧勝を受け十月十四日、成立した。とはいえ、二〇〇四年九月郵政民営化基本方針骨子が閣議決定されて以降、〇五年に入り法案の国会提出を経て、衆院では五票差という僅差で可決、そして参院では法案を大差での否決という事態を生起させた郵政労働者ユニオン(以下、郵政ユニオン)と郵政民営化を監視する市民ネットワーク(以下、監視ネット)の一連の集中した郵政民営化反対運動の取り組みをこの圧勝によって過小評価することはできない。
 郵政民営化反対運動の全国的な取り組みをめざして、〇三年、郵政全労協から全国単一組織に移行した郵政ユニオンは、近畿・首都圏でのシンポジウムを皮切りに、全国各地で公共サービスとしての郵政事業のあり方を第一義として追求する討論集会、学習会、交流会、地域情宣行動などを積み重ねてきた。また郵政ユニオンは`誰のための、何のための郵政民営化か!市民・利用者のための郵政改革 私たちの提案aを討議資料として作成し、他労組や市民団体に訴えかけてきた。
 こうした取り組みによって四月三日、東京で監視ネットが立ち上げられ、市民シンポジウムが全国各地で開催されていく原動力となっていった。こうした中で衆院特別委での審議を経て、大きな山場を迎えた五月下旬には、監視ネットと郵政ユニオンの共同で国会対策の取り組みとして民営化阻止闘争本部を設置し、国会前での集会や座り込み行動、院内での集会、議員要請行動など連日の集中した取り組みを行ってきた。
 七月には全労協へ呼びかけ二百五十人の労働者・市民の参加で請願デモを実現した。郵産労との国会内外での共同行動も展開され、同時に、郵政民営化法案とともに審議されていた障害者自立支援法に反対する障害者団体の請願行動と座り込み行動、さらには「共謀罪」に反対する市民・労働組合との共同の座り込み行動も行ってきた。
 こうして約三カ月におよぶ国会での郵政民営化法案を廃案に追い込む取り組みが展開されていった。とりわけ、監視ネットが週一回の国会傍聴ニュースを発行、参院の山場では日刊化を継続し、同時に郵政ユニオン作成の民営化リーフレットをポスティング、さらには直接議員に訴えかけてきた行動が、議員とその秘書への小さくはない影響を与え、のちの衆院での五票差という可決と参院での大差での否決につながっていったと言える。

民営会社をめ
ぐる利権争い


 衆院での郵政民営化法案の否決という事態にあって小泉首相は、衆院を解散し、総選挙に踏み切った。小泉首相は「行政改革を断行する」「公務員を減らす」「民間にできることは民間に」を絶叫しながら、郵政民営化に賛成か反対かの二者択一のデマゴギーをもって圧勝に導いたのだが、四年余りのこの政権のやってきたことはどうであったのか。
 労働の規制緩和によって今や非正規労働者が労働者全体の三割を超え、二十五歳未満では四五%から五〇%に達している。また平均年収でも(25歳〜34歳)、正社員が三百八十四万円に対して非正規労働者は百五万余円に過ぎず、正社員の三分の一にも満たない。
 一九八〇年代に始まる資本の新自由主義は、うち続く不況の中でリストラ、大幅賃下げ、労働者派遣法の制定によりパート・不安定雇用化と権利のはく奪を押し進めてきた。この結果、日本の労組組織率は今や二〇%を下回ってしまった。小泉の構造改革は、財界・資本の意志を体現したものであり、新自由主義グローバリゼーションを展開していくにあたっての阻害となる旧来のさまざまな制度を取り払っていく規制緩和を推進してきた。同時に、新自由主義が民営化・市場化に容易に対応できるための法整備を押し進め、前述した労働者派遣法の制定、そして今また労働契約法制の法案化の動きをみれば、そのねらいは明らかだ。
 こうして小泉政権の四年余りの間に、日本の世帯別所得水準は一九八〇年代前半までの上位二〇%と下位二〇%の所得差が十倍であったのに比して、百六十八倍までに所得格差が急激に拡大していることに加えて労働現場における二極化構造が進行してきている。郵政民営化法案はこのような小泉首相の新自由主義路線の展開の下で成立した。
 法案の成立を待つまでもなく、郵政公社はすでに郵便事業における民営化を前提とした合理化と諸施策を矢継ぎ早に打ち出してきていたのだが、この成立によって一気に加速していく。
 民営化で発足する五社の構成は、日本郵政局株式会社(持ち株会社)が三千人、郵便事業会社が十一万人弱、郵便保険会社が四千人、郵便貯金銀行が八千人とされている。ここでは普通局の集配部門の職員と特定局長が郵便会社に、貯金・保険課の職員と窓口職員はすべて窓口会社に配属されるとしているが、普通局の郵便内務職員と集配特定局の集配部門職員の配属は未定だ。ところで、かねてから問題視されていた私有局舎制・無転勤六十五歳定年制・自由任用制を温存してきた一万九千人の特定局長の処遇は民営化後も郵便事業の監理監督の地位にあるとされ、「みなし公務員」として再度温存されることとなった。この結果、私有局舎の場合、郵便会社に所属する特定局長に窓口会社からその賃貸料が支払われるという歪んだ構造が現出してきた。
 民営会社をめぐって、郵政巨大資産は国内外の大資本と郵政官僚の利害むき出しでの民営会社のポスト争いを頂点に草刈り場と化してきている。
 十一月十一日、政府は民営化で発足する日本郵政株式会社(持ち株会社)の初代社長に西川善文・三井住友銀行特別顧問の就任の内定を発表した。三井住友銀行は二年前、自己資本比率増強のためゴールドマン・サックス社から五千億円の増資を受けたのだが、この十月から郵貯が窓口販売を始めた投資信託商品のうち、外資で唯一選定されたのがこのゴールドマン・サックス社運用のものだった。その上、上場される日本郵政株式会社・郵便貯金銀行・郵便保険会社の三社の株式の主幹事証券に同社がなることで数百億円の手数料収入がころがりこんでくると言われている。
 郵便局窓口で開始された、こうしたリスク商品である投資信託販売に関して、公社は「コンプライアンスの徹底を」と販売する職員に呼びかけてはいるが、初年度の販売目標達成額(一一二九億円)に向けた積極的(強引な)販売競争となるのは明らかであろう。庶民の利害を返りみず、貯蓄から投資への移し替えを推し進め、初年度十八億円の手数料収入を見込んでおり、民営化後は投資販売による手数料収入をビジネスの中核にすえていくことを目論んでいる。

あいつぐ料金値
上げが始まった


 こうした中で十一月十六日、郵政公社は郵便振替と国際送金の料金改定を発表した。ATM、インターネットでの利用料金の値下げを前面に押し出す一方で、窓口利用の通常払い込みなどの料金を一律三十円引き上げるというものだ。公社はこの料金改定で「郵便振替の利用者をATMに誘導して稼動率を上げるとともに窓口の混乱を緩和、新たに生み出された時間を投資信託の説明などに充てる」としている。
 しかし、郵便振替のATM・インターネット利用件数は年間約三億五千万件の通常払い込みのわずか六%に過ぎず、窓口利用が圧倒的なのだ。この手数料の徴収や値上げに関しては本紙でも幾度か指摘してきたところだが、民営化法案の成立をもって一気に値上げを行い、手数料収入の増益と窓口定員の削減をねらったものであることは明らかだ。これによってATMが設置されていない過疎地の利用者や高齢者が打撃を受けることとなった。一方、郵便料金に関しても法案の成立により、従来は認可制だった郵便料金が届け出制へと大きく変わり、いつでも容易に料金値上げが実施できるようになった。改正郵便法では既に速達が廃止となり、利用者は高価な`翌朝10時郵便aや`エクスパックaの二者を選択せざるを得ないという実質的な料金値上げが待っている。
 収益を多くは望めない国内郵便市場から国際物流事業への進出をめざす郵政公社は十月二十日、全日空との間で貨物機運航会社を設立すると発表し、来年四月からアジア・北米市場を中心とした国際航空貨物運送事業に乗り出すことを明らかにした。さらに十月三十一日には、国際大手インテグレーターのひとつであるオランダTNT社と戦略パートナーシップを構築することを発表した。両社は共同ブランドで国際エクスプレス商品を日本国内に提供するとともに、日本で合弁会社を設立してアジア太平洋地域での国際物流事業を拡大させていくとしている。
 一方、国内でも三菱UFJ信託銀行との間で郵便物の封入・発送業務の合弁会社を〇六年二月に設立すると発表、株式は公社が五一%、三菱UFJが四九%保有するという。先の大丸の一〇〇%子会社で商品の包装や仕分け発送などを請け負うアソシア(本社大阪)との合弁や東武百貨店とのゆうパック取り扱いの合意、サークルKサンクスを始めとするコンビニでのゆうパック取り扱い合意の拡大推進など、国内外における物流分野への進出・展開はすさまじい勢いだ。
 こうした物流事業への展開の中で、多くの合弁会社、子会社が設立され、そのポストをめぐる熾烈な争いが財界・郵政官僚・政府の間で行われていく一方で、現場で働く職員に対する配転・出向や賃金・勤務時間・交渉ルール・スト手続きなど、実に多岐にわたる事項について各労組との交渉が始まる。既に連合二大労組の一つの全郵政労組は承継労働協約の交渉に入る準備をしており、もう一方のJPU労組も同様だ。いずれこの両労組は民営化を前後して組織統合がはかられ、新経営陣との労資一体化路線を踏襲することでは何ら変わりはないであろう。

郵政事業を市民と社会のために


 この連合二労組の労資協調路線の下で、郵政公社は民営化を前に営利追求を第一義とした服務合理化職員定数の大幅削減とそれに替わるゆうメイトの大量雇用などで経営基盤の強化をはかってきた。しかし、こうした中でゆうメイトの解雇や賃金不払い、強制配転など全国的に現出してきた。さらには拘束十二時間の実働、十時間勤務という過酷な四連続深夜勤も導入された。郵政ユニオンはこれらの攻撃に対し、労基署への申告を含めた裁判闘争を闘ってきており、その闘いの拡大に向けた取り組みを展開している。
 こうした闘いとともに、郵政ユニオンは、ニュージーランド、ドイツ、フランス、スペインの例にみられるように郵貯の民営化後、再合併された流れを受けて郵政民営化後も引き続き、公共サービスを守る運動を展開し、郵政事業を市民・社会の手へ取り戻す新たな運動を構築することを提唱している。
 具体的には以下の四点の領域での運動の形成が必要であるとして@利益優先、競争主義の全面展開に抗して、職場の連帯を広範に形成する運動―正規雇用と非正規雇用労働者の連帯の形成A郵政民営化を監視する市民ネットの活動を持続し、地域や市民とのつながりを強め、ネットワークを拡大させるB埼玉・越谷で結成され、大きな反響を呼んだ「地域から郵便局を考える会」づくりにならった地域での市民・利用者とのつながりを生かした新たな試みへの挑戦をするC格差拡大、福祉縮小、自己責任の押しつけにNO!を、新自由主義に抗して社会的連帯運動の構築を呼びかけ、その具体化を目指す。これらの運動への取り組みを強化していくことを提起している。
 小泉「構造改革」路線に反対する労働者・市民の運動を広範に、力強くつくり上げていこう。(中村哲也)


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