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スウェーデン 僅差で保守派連合が勝利         かけはし2006.10.16号

失業、民営化の新自由主義的政策が労働者を離反させた

アンダース・スベンソン



 九月十七日投票のスウェーデンの選挙は政権交代に帰結した。スウェーデンは右派が多数派として政権を持つことになる。しかし保守連合の選挙での勝利は僅差だった。保守派の得票率四八%は、左派ブロックの四六%をわずか二%上回ったにすぎない。保守連合の議席数は百七十八で、左派ブロックは百七十一である。
 最大政党は、一九二八年以来最悪の結果だったとはいえ、依然として百三十議席を獲得した社会民主労働党(社民党)である。社民党が十四議席を減らしたのに対し、保守連合の最大政党である穏健党は四十二議席を増やして九十七議席となり、第二政党になった。これは一九二八年以来、穏健党として最良の選挙結果である。わずかな議席(二議席)を増やした緑の党と八議席減らした左翼党(元ソ連派共産党)の結果が、選挙での左派ブロックの敗北を確定することになった。
 穏健党が大成功した一つの理由は社民党自身にある。十二年間政権につく中で、左派ブロックはその間、民営化、コスト削減、そして一般的には新自由主義的政策を追求してきた。注意深く、緩やかにであったとしてもである。その間失業率は欧州で最高になるほどに上昇し、他の北欧諸国よりもはるかに高くなった。
 選挙運動期間中、社民党はこうした事実を否定し、わが国ではすべてがうまくいっていると主張した。こうしたことが、穏健党とその連合に対し、より多くの雇用を創出するためのより信頼しうるオルタナティブとして活動する機会を提供したのである。社民党が緑の党や左翼党とともに行った病院など公共領域の資産の剥奪は、保守派連合がその後に従う道を切り開いた。このように社民党政権の新自由主義政策が、保守派連合がよりひどい新自由主義政策を掲げて選挙に勝利することを可能にしたのである。
 社民党の権力喪失のもう一つの理由は左翼党である。左翼党は社会民主主義への左翼オルタナティブを創造することができず、ほとんどつねに社民党政権を支持し、民営化に対してさえもスウェーデン労働者階級へのオルタナティブを提起しなかった。そのために、労働者階級の一部は今回の選挙でレイシストのスウェーデン民主党を支持した。

 保守派の勝利と同様に懸念の種は、地方選挙での極右派、レイシスト政党であるスウェーデン民主党の勝利である。社民党が雇用を創出できず、失業に対してなにもしなかったため、スウェーデン民主党は勝利の方法としてレイシズムを利用することができた。高失業率を移民や難民のせいだとして非難するのは簡単なことだ。彼らは今回の選挙では国会に進出できなかったが、左翼や極左翼の中でなにごとも起こらなかった場合には、レイシストのスウェーデン民主党は次回はおそらく国会に進出するだろう。しかし彼らは地方選挙では、多くの自治体議会で議席を獲得した。彼らはとりわけデンマークに近い南部スウェーデンで好成績を収めた。南部では、彼らは国会選挙で約一〇%獲得し、多くの自治体選挙では二〇%にまで達した。
 社民党政権を支持する第三党は緑の党だった。しかし彼らは労働者階級の中に強力な支持基盤を持たず、オルタナティブとして見なされなかった。
 国会議席を得なかった政党で二番目に大きいのは新政党の「フェミニスト・イニシアティブ」である。このフェミニスト政党は、元左翼党議長のグドルン・シュイマンが率いている。同党は国政選挙で一%を獲得した。同党は左か右かのものさしに基づいていないと主張し、まったく階級指向の方針をもっていなかったにもかかわらず、おもに伝統的な左翼支持の有権者から票を獲得した。この選挙結果は、同党にとってまったく失望をもたらすものだった。同様に昨年の欧州議会選挙でのスウェーデンにおける主要な勝者だった「六月リスト」の結果も、このEUに批判的なブルジョア政党にとって失望をもたらすものだった。昨年の欧州議会での同党の得票率が一四%だったのに対し、今回の国政選挙ではわずか〇・五%にすぎなかったのである。
 スウェーデンの選挙では強力な右転換がさなれた。穏健党は、中産階級から社民党に投じられていた票を奪ったが、同時に労働者階級の票の一部も獲得したように思える。いまや穏健党は、労働者階級の中で左翼党よりも強い支持を得ている。われわれはまた地方自治体選挙では、相当な数の労働者階級の票が極右に投じられたことを見てきた。
 極左派の地方選挙の結果もかんばしいものではなく、合わせるとおそらく全く増えなかったようである。二つの小さなスターリニストグループは合わせて五〜六議席を失い、トロツキスト的方針を持った二つの党は五〜六議席増やした。
 スウェーデンの極左グループの中ではCWI(労働者インターナショナルのための委員会、英ミリタント派)の支部が最も多くの自治体議席を持つことになった(全体で8議席で、新しく3議席増加)。第四インターナショナルの支部である社会主義党は二〜三議席を増やし、三から四の自治体議席を得た。小政党の正確な議席数は、最終結果が判明してからになる。
 右派ブルジョア諸政党の勝利によって、スウェーデンの労働者階級は、たとえば失業給付の削減などの公共支出のカットという厳しい四年間を経験することになるだろう。さらに多くの学校が民営化されることになるだろう。利益を上げる可能性のある病院も民営化されるだろう。国営の電力会社も、ほとんどの国営企業とともに民営化されるだろう。とりわけ青年たちに対して、労働者を解雇から守る法律が弱められるだろう。
 保守連合は、女性たちを強制的に労働市場から追い出す法案や、難民の地位をさらに困難にする法案を導入するだろう。こうしたことにより、物価上昇、賃金下落、社会的隔離・差別の強化がもたらされるだろう。

スウェーデン国会選挙の結果

b保守連合        178議席
穏健党       26.1%  97議席
中央党       7.9%  29議席
自由党       7.5%  28議席
キリスト教民主党  6.6%  24議席

b左派ブロック       171議席
社会民主労働党  35.2%  130議席
左翼党      5.8%   22議席
緑の党      5.2%   19議席

bアンダース・スベンソンは、スウェーデン社会主義党〔第四インター・スウェーデン支部〕執行委員で第四インターナショナル国際委員会のメンバー。
(「インターナショナルビューポイント」電子版06年9月号)




フィリピンと日本との経済連携協定に反対する
                     JPEPAに反対するキャンペーン

 9月10日、ASEM(アジア欧州会議)のためにヘルシンキを訪れた小泉首相とアロヨ比大統領の間で日比経済連携協定(JPEPA)が署名された。ASEM対抗フォーラムに参加していた新自由主義グローバル化に反対する日比の市民運動組織はこれに対して次の声明を発した。


 ヘルシンキでのアジア欧州民衆フォーラム(AEPF)に参加しているフィリピンと日本のグループは、日本の小泉首相とフィリピンのアロヨ大統領が、ヘルシンキで来週開かれるアジア欧州会議(ASEM)の傍らで、議論を巻き起こしている日本フィリピン経済提携協定(JPEPA)を最終計画する決定をたてていることに強い反対を表明する。
 そのグループは、小泉とアロヨが、JPEPAに対して緊急で、しかもでたらめなやり方をとったことを批判した。アタック・ジャパンの秋本陽子によれば、「JPEPA交渉は、両国の官僚によって、国民に協定の内容を開示せずに、ほとんど完全な密室の中で進められた」。
 フィリピンでは、アクバヤン党が最高裁判所への申し立てを行い、その条項を国民に開示することなく、政府が日本との二国間協定に署名するのをストップさせようとした。
 フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウスのジョセフ・プルガナンによれば、「フィリピン政府は、JPEPAのフィリピン経済に及ぼす悪しき影響を懸念して、深刻な憂慮を示すグループに情報を与えないために、大統領(行政)特権を行使してきた。しかし、この協定の詳細を知り、反対の声を上げることは、JPEPAの取り決めによって影響を受けるすべての部門の権利であると、私たちは信じている」。
 日本とフィリピンは、工業品の輸入関税を九〇%まで削減し、協定発効後の十年間でもっと削減するであろう。フィリピンは日本からの鉄鋼輸入関税を、少なくとも六〇%、すぐに撤廃し、自動車その他の関税を二〇一〇年までに完全に撤廃するであろう。
 農産物貿易に関しては、日本側は、関税削減やその他の手段を通じて、鶏肉・パイナップル・バナナの輸入を拡大する。フィリピン側はブドウや梨の関税を廃止する。
 様々な議論が出ている労働問題、特に看護師や介護士の労働市場の門戸開放に関するフィリピン政府の要求をめぐって、交渉は遅延した。最近、日本の新聞は、日本がフィリピンの介護士や看護師の人数制限を上方修正することでフィリピンと合意したと報道した。日本側は、来年のFTA発効後に、東南アジアの国から年間四〇〇〜五〇〇人の看護師と介護士を受け入れると予想されている。
 秋本陽子によれば、「定められた人数と労働期間は、まったくもって非現実的である。なぜなら、それを実現するには、日本の厳しい移民法をすぐに変えなくてはならないからである。加えて、フィリピン人労働者の受け入れや入国に関しては、法務省だけでなく日本の労組やNGOの間で、さらなる議論や疑念を引き起こすであろう」。
 日本とフィリピン両国の社会運動は、その取り決めが両国の経済に悪しき結果をもたらすので、JPEPAに抗議し、今後もJPEPAに反対するキャンペーンを続けていく。
二〇〇六年九月六日 フィンランド・ヘルシンキ

アタック・ジャパン/脱WTO草の根キャンペーン/フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス/ストップ・ザ・ニューラウンド・コアリション(新ラウンドを止めよう連合)/フリーダム・フロム・デット・コアリション(債務からの解放連合)/ラバンナ・マサ
(NO-GATS Friends のサイトより。NO-GATS Friends は、ATTAC Japan〔首都圏〕の中に作られたGATS〔サービス貿易に関する一般協定〕に反対するプロジェクトチーム)



コラム
高齢者をねらい撃ち


  この十月一日から七十歳以上の高齢者の医療費負担が増額された。これまで七十歳以上の医療費負担は「一般」が一割、「現役並み所得者」が二割であったが、「現役並み所得者」は自己負担が三割に引き上げられた。「現役並み所得者」とは一、課税所得が百四十五万円以上、二、所得が@七十歳以上が複数いる世帯で五百二十万円以上、A七十歳以上が一人の世帯三百八十三万円以上の一と二の両方に該当する場合の所得者をいう。
 今年八月の税制改正に伴い二項の所得は@、Aとも百一万円引き下げられ、一項の金額は変わらぬものの、老年者控除が廃止され、公的年金等控除も縮小されたため、収入は以前と同じなのに、新たに「現役並み所得者」に仲間入りさせられ、自己負担を一割から三割に増えてしまう人もいる。税制改正前は「現役並みの所得者」は、七十歳以上人口の六%に当たる百二十万人であったが、改正後は一一%、二百万人となると聞く。八十万人が新たに「現役並み所得者」としてこれまでの三倍の自己負担を強いられることになったのだ。また、現在一割負担の「一般」も二〇〇八年四月から七十〜七十四歳の人は二割負担となることは既に決まっている。
 確かに、病院など医療機関に行くと高齢者の方を多く見受けるが、どこか具合が悪いから病院に来ているのだろう。これらの人(患者)がいなければ病院経営が成り立たないのではと思わせるほど多く見受ける。この人たちが、自己負担が三倍になったからといって通院や薬を三分の一にすることはできないだろうし、二〇〇八年四月から二割負担になるからといって、それまでに病気を治してしまうこともできないだろう。
 自己負担が増やされたからといっても、自らの命を守るために医療費を削ることはできないだろう。収入は以前と同じであっても医療費の自己負担が増えれば、その分生活費のどこかを削らざるを得ない。年金などの収入しかない高齢者にとっては厳しい状況になるであろう。
 私は年金生活に入ってから国税申告時に医療費控除を行い、ささやかな抵抗をしている。二〇〇五年分の申告では七万四千円、二〇〇四年分では二万八千円でその一割が減税された。医療機関ごと、薬局ごとに分類しての申告となるが、買い薬も対象になり、また扶養家族がいれば、彼らの負担分も合算できる。わが家では私と連れ合い二人分の一年間の医療費代で十万円を超える額が前述の額です。
 いったん決定されたことを覆すのはかなり難しいことですが、今後国民年金への税の更なる投入などで消費税の増額攻撃は必至だろうと思われます。自民党総裁選挙で消費税増額をうやむやな態度に徹した安倍が勝ち、総理大臣になった。未だに安倍は消費税は「税制改革の本格的、基本的論議は来年秋以降」などと先送りし、来年九月の参議院選挙を意識した発言に終始している。増税攻撃を許さない体制の構築を。       (高)


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