第四インターナショナル15回世界大会報告集によせて(下) かけはし2004.07.26号 |
新たな情勢と「長期にわたる困難な道」
世界大会決議「第四インターナショナルの役割と任務」は次のように述べている。
「われわれは新たな、きわめて独特な情勢のなかにいる。労働者階級は依然として弱体な位置にあり、防衛的であるが、ラディカル左翼は大規模に政治的イニシアティブを回復し、立ち直っている。その目標は、諸闘争と大衆的動員に責任を持ち、方向づけを行うことをめざす大胆で反資本主義的な社会的・政治的左翼を確信を持って自己主張することである」
「われわれの前にあるのは、社会運動の再組織化が始まった『現時点』と、階級的力関係の転換が国際的規模で攻勢的な戦闘を開始し、社会主義的展望にとって有利なイデオロギー的・政治的機運を創造するというこれから起こる段階との、長期にわたる困難な道である」(98〜99頁)。
資本の支配を不動の前提にする限り、新自由主義に屈服するしか道はない。社会民主主義の「社会自由主義」への「進化」が進行し、スターリニズム、ポストスターリニズム諸政党も、混乱と衰退を深めながらこれへの追随を深めている。
グローバル戦争反対の闘いや新自由主義グローバリゼーションに反対する闘いをはじめとする社会的抵抗運動の先頭に立ってきた革命的左翼、戦闘的左翼諸勢力にとって新たな政治的空間が開かれてはいるが、困難な主体の状況はいまも続いている。
今年二月に開催された第四インターナショナル国際委員会に提出されたフランソワ・オリビエ報告は言う。「これらの闘争(さまざまな社会的抵抗運動)には再編成の重要な要素が存在するが、いまだ労働運動内部または基本的階級間の力関係の深刻な変化をもたらす条件を作り出す位置にはいない。特に社会民主主義、民族主義政党の新自由主義的進化と旧スターリニスト党の衰退の加速によって空間が開かれ、開放され始めているが、その空間を完全に埋めるにはラディカル勢力は依然として困難に直面している。われわれは過去の世紀の敗北の対価を支払い続けており、再構築の過程は長い道程である」(「かけはし」04年6月28日号)。
そのような「再構築の過程」を促進するための決定的テコが、社会自由主義に屈服するすべての勢力(社会民主主義、ポスト・スターリニズム、支配体制に参画したエコロジスト、ポピュリスト)などとはっきりと区別された「広範な反資本主義左翼政党の建設」であり、「新たな大衆的・革命的・反資本主義的・反帝国主義的インターナショナルの建設」である。このために世界大会は、各国レベルでもインターナショナルレベルでも、反資本主義左翼勢力の再編成と統合を重要な実践的課題として設定した。
「反資本主義左翼」とわれわれの認識
第十五回世界大会であらためて当面する組織目標として設定された「反資本主義左翼」建設は、すでに九〇年代後半以降、第四インターナショナルの具体的実践課題としてさまざまに取り組まれてきた。
たとえば、第四インター派を党内最左派としてルラ政権を押し上げたブラジルPT(労働者党)、同様に第四インター派を含む大衆的社会主義政党として存在するイタリアPRC(共産主義再建党)、イギリスのトロツキスト統一組織社会主義連盟やヨーロッパ反資本主義左翼会議など、「オルタナティブとしての社会主義」を大衆的な現実的選択肢として登場させようとする試行錯誤と実践が積み重ねられてきた。
しかし日本で第四インターナショナルの一翼を担おうとするわれわれは、そのような闘いを現実の挑戦課題として具体的に取り組んではこなかった。九九年の第十八回全国大会でわれわれは、大衆運動的基盤が後退し続ける状況のなかで、「当面、われわれはそうした反資本主義政治勢力形成のための左翼の政治的・組織的再結集のイニシアチブを発揮する状況にはない」と規定した。
『第四インターナショナル宣言』のなかでマンデルが提起した意味での「階級の敗北」が最も深く進行していたのは、かつて「官僚的に堕落した労働者国家」と呼ばれた諸国家であったが、世界の資本主義工業国でそのような「階級の敗北」が最も深く進行したのは、内ゲバ主義という最悪のスターリニズムによって革命的左翼の大衆的基盤が破壊しつくされた日本であった。
すなわちわれわれは日本では当面、大衆のなかに「反資本主義左翼」を求める意識も、「反資本主義左翼」を押し上げようとする基盤も存在しないと考えてきたのである。われわれが自らの課題として設定したのは、反資本主義左翼結集のための条件作り、基盤作りであり、国家と資本に対する集団的抵抗の歴史的連続性の再建をめざす「根本的再組織化」のための闘いであった。
三年後の〇二年第十九回全国大会で、われわれは「左翼勢力の主体的状況に大きな変化はない」としながらも、「反資本主義左翼」のための挑戦を彼岸化せず、意識的に押し進める今日的課題として設定し直すべきであると規定し直した。
それは言うまでもなく、反グローバリゼーション運動の世界的高揚を基盤にして、ソ連・東欧の崩壊で終焉した「一九一七年ロシア革命以来の世界社会主義革命運動のサイクル」に続く、「二一世紀の世界社会主義革命運動のサイクル」を切り開くための闘いが力強く前進し始めており、そのような情勢のなかで第十五回世界大会に向けた討論が始まっていたことを背景にしていた。
第四インターナショナルが「乗り切った」と言う「地獄への下り坂」は、日本ではまだ続いており、ますます深刻さの度を加えているということさえできる状況がある。しかし、きわめて不安定で未分化であるとはいえ、昨年来のイラク反戦運動という形で、日本でも社会運動が大衆的に復活する可能性が形成され始めている。
ヨーロッパの今日の大衆的社会運動を、ヨーロッパの同志たちは「非政治的」と規定している。日本で始まった運動の兆しは、ヨーロッパとは比較にならないくらいはるかに「非政治的」であり、新自由主義ともほとんど未分化である。しかし、われわれ以外の新しい世代の活動家の世界社会フォーラムへの積極的参加や国政選挙への関わりへの意欲など、経験的学習の課程が始まっていることも事実である。
この機運をつかまなければならない。社民党と共産党の危機と分解の進行は早く、「護憲派」「平和主義」などの意気消沈の過程、「社会的敗北のサイクル」の進行に間に合って、新しい社会運動の兆しを再組織化することが必要である。
新しい世代の経験的学習の課程を、ともにスクラムを組んで運動を担いながら全力で促進することによって、ヨーロッパやラテンアメリカで大衆的に登場している「新しい政治的世代」を形成し、政治的イニシアティブ装置を建設し、さらにそのような活動家群を社会主義革命への道に獲得すること。これをわれわれの現実的挑戦課題として設定しなければならない。
「反資本主義左翼」の政治的前提
現在、さまざまな日本の左翼諸組織や活動家とその周辺で、国政選挙などを通じた局面打開の試みやさまざまな政治再編への模索が行われているが、その基盤としての具体的大衆運動の建設とは切り離された「政治的枠組み作りのための活動」という状況を超え得てはいない。そればかりか、ますます混迷を深める社会民主主義に合流し解体する危険性とも未分化である。
社民党と共産党の危機と衰退、分解は不可避である。「社会的敗北のサイクル」にブレーキをかけ、反転攻勢を準備するためには、これに対する「受け皿」としての鮮明な反資本主義の「旗」が必要である。それは、世界大会の決議でも何度も指摘されているように、新自由主義に屈服する社会民主主義やスターリニズムとは明確に異なった「旗」でなければならない。
もちろんわれわれは、革命的左翼が新しい青年世代や労働者運動と直接、大衆的な結びつきを形成し、現実的オルタナティブ勢力として登場し始めるという、ヨーロッパやラテンアメリカの同志たちが踏み込んでいるような情勢と主体の状況からは、ほど遠い地点にいる。大衆運動の基盤がいまなおきわめて弱体であるため、作業には慎重さが必要である。大衆的基盤のない「討論のための討論」に費やすような余力はない。
われわれは現在、「反資本主義左翼の統一」をめざす討論の前提を、次のように考えている。
第一にそれは、国家と資本に対決する大衆運動を一歩でも前進させるために闘い抜いており、その闘いを責任を持って担おうとするグループや勢力同士の討論でなければならない。そして現実の闘いのなかで相互の信頼関係が形成され、強化されることが前提である。
第二に、「社会自由主義」化する社民勢力やスターリニズムと政治的に明確に決別し、新自由主義に屈服する「よりまし資本主義」論と自覚的に対決する政治的姿勢が必要である。
たとえば、韓中・韓日自由貿易協定をめざす韓国ノ・ムヒョン政権が押し進める「東アジア経済圏」や、マハティールの「アジア経済圏」などの新自由主義的構想に、新自由主義とグローバル戦争に反対する労働者人民が連帯した「もう一つのアジア」を対置できなければならない。
第三に、スターリニズムの破産によって崩壊した「資本主義へのオルタナテイブとしての社会主義」という大衆的意識を再建するために闘うという、自覚的意志が前提である。それは、「社会主義とは民主主義抑圧と人権弾圧と貧困であり、すでに失敗した歴史的実験である」という大衆的意識、すなわち「社会主義とはソ連であり、中国であり、北朝鮮である」という大衆的意識を打ち破るために、全力で闘い抜く必要がある。
「社会主義者とは、人権と民主主義をあらゆるところで全力で守り抜こうとする存在なのだ」ということを、はっきり示し続けなければならない。
したがって第四に、スターリニズムのあらゆる表現と自覚的に対決するという姿勢が求められる。たとえば北朝鮮金正日専制支配体制を「社会主義的人間解放に対する反革命である」として徹底的に告発し、人権抑圧の被害者と連帯しようとする姿勢が必要である。同時に、日本における最も醜悪なスターリニズムの現れとしての内ゲバ主義を一掃するという自覚的意志が必要である。
このように、われわれが考える「反資本主義左翼」結集の前提となる政治的ハードルは、今日の政治状況からいえば決して低いとは言えない。むしろ高いと言えるだろう。それは、国家と資本に対決する大衆運動と集団的抵抗の歴史的連続性が内ゲバ主義によって切断され、ほとんどゼロに近いところから再建に取り組まなければならない状況では、再出発の起点はだれからも誤解の余地なくクリアーでなければならないからである。
討論のための出発点は、「グローバルな平和・人権・公正・民主主義」という、われわれが第十九回全国大会で打ち出したスローガンに集約されるだろう。それは単なるセクト主義的宣伝スローガンではなく、社会主義革命運動を日本でも再出発させるために必要不可欠な前提なのだということを、運動をともに担いつつ訴え続けなければならない。「反資本主義左翼」の結集と統一をめざす闘いを開始しよう。
(04年7月5日 高島義一)
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