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                          かけはし2003.3.31号より

イラク戦争―進撃の体制を整える「帝国」

ジルベール・アシュカルに聞く

 ジルベール・アシュカルは、パリ第八大学の政治学講師で、『野蛮の衝突、テロリズム、世界の無秩序』の著者でもある。彼がアメリカの対イラク戦争についてのインタビューに答えてくれた。このインタビューは開戦前に行われたもの。


「大量破壊兵器」疑惑とは

――戦争を正当化するために、イラクが大量破壊兵器を保有しているというブッシュの主張をどう思いますか。

 この非難が証拠もなく最初から浴びせられているという意味で、それが口実であって根拠ある主張でないことは明白である。
 国連の査察開始以来、アメリカの複数の指導者(とりわけドナルド・ラムズフェルド国防長官)は、査察が役立たないこと、査察によっては大量破壊兵器が存在しないことを立証できないと繰り返し主張してきた。大量破壊兵器を保有していないことを立証するのはイラクの側であるとする驚くべき論理に、さらにこのような主張が付け加わるのである。
 厳密に言えば、自分があるものをもっていないことを証明するのが不可能であることは明白である。
 国連の全査察活動はしたがって、部隊と兵器の配置が時間どおり進められているので、時間稼ぎであり、とりわけアメリカの世論に、アメリカが戦争に入る前に国際法という点でわざわざ正当な手続きを踏むという労を十分に取っているという印象を与えるためであった。
 言い換えれば、その結果はいわずと知れている。査察が違反を発見すれば、アメリカは自らが戦争をする権利があるとみなすだろうし、査察が何も発見しなければ、何も立証されなかったことになるわけである。なぜなら、何も発見されない場合、それは大量破壊兵器が存在しないことを証明できなかったということになるからである。
 国連の安全保障理事会に対してコリン・パウエル国務長官自身は、査察官がその場所に行き着く前に兵器が移動されているから、査察が何の役にも立たないということを立証しようと試みているのである。それは、戦争のための口実にすぎないし、この戦争の方針は長年来、既定方針であることがよく分る。
 この告発に関して根本的には、最高度の大量破壊兵器である核兵器に関して、ワシントンでさえバクダッドがそれを保有しているとは主張していないという点をたえず注意しておく必要がある。
 ブッシュは、国連総会での去る九月の演説において、イラクが核分裂性物質を獲得すれば、一年以内に核兵器を装備できるようになるだろう、と語った。これは結局のところ、この国が核兵器も、核分裂性物質をすら保有していないことを認めるものであった。これは、実におどろくべきやり方の「予防戦争」という次のようなまったく特殊な考えを示している。
 すなわち、この考えは、攻撃の意図を示している敵に対して機先を制することにあるのではなく、まだ保有していない武器を装備したいとする意図を持っているとみなされる敵を攻撃することにあるのである。これはまったくもってどうしようもなく愚かしい考えである。
 化学兵器と生物兵器については、イラクはすでに長年の間、保有してきたし、すでに北部においてクルド人に対して、またイラン・イラク戦争の一環としてイラン軍に対してそれらを使用しさえしている。当時、そうであったからといって、西側中心地の側からいかなる憤激が引き起こされることもなかった。この兵器に必要な物資はしかも、西側企業によって、したがって西側大国の目の前で、提供されたのであった。
 その時以来、この国は七年間の国連査察を受けることになり、国連はそれらの保管兵器を破壊した。たとえイラクにまだそれらの兵器が残っているとしても、この国が(ミサイルの)飛翔体を持っていないという事実を考慮に入れるならば、それは、環境にとって脅威とはなりえないし、イスラエルと同様に、膨大な量の大量破壊兵器を貯蔵している米国にとってはさらにその脅威は少ないだろう。
 民主主義体制を樹立するのだという主張自身もまた茶番であるという点を付け加えておこう。この地域のアラブ専制的体制の大部分はワシントンと緊密に結びついているからである。

ブッシュ政権の狙いは何か

――それでは、それが欺瞞であるとすれば、ブッシュ政権の本当の狙いは何なのでしょう?

 その真の狙いは何度も強調されてきた。それは第一に何よりも石油である。イラクは石油埋蔵量からするとサウジアラビア王国に次ぐ世界第二位の国である。さらに、この国の現在の石油生産は今日、この国の客観的な生産能力の三分の一であるが、石油価格の急騰を避けるためには今後数年のうちにそれを増産しなければならないだろう。だが、イラクの石油生産を増やすためには、インフラストラクチャを再建し、それを近代化しなければならず、それには禁輸措置を解除しなければらないだろう。
 禁輸を解除するために、ワシントンは、政権交代が、そしてまた同じこの機会に、近年、バクダッドによってフランスとロシアのために供与されてきた利権の破棄が、不可欠であるとみなしている。だから、イラクの石油の開発を一人占めする必要があるということなのである。
 それに、イラクの再建に伴う膨大な市場がこれに付け加わる。この国は、一九九一年に徹底的に破壊尽くされ、禁輸のために本当の意味では復興していないからである。
 以上が真のねらいである。それ以上に、世界の石油埋蔵資源に対する支配という点でのアメリカのもう一歩前進は、潜在的ライバルに対抗してアメリカが行使する世界的覇権のさらなる決め手になる。西欧や日本は、アメリカ自身に比べてさらに大きく湾岸地域の石油に依存している従属的列強なのである。

新政府の樹立と米国の展望

――新政権を樹立するには、爆撃だけは十分ではありません。その場合に、ブッシュ政権が目論んでいるのはどのような計画なのでしょうか?

 戦争準備の最初の時期から、アメリカがイラクに軍事的に長期にわたって駐留することは分っていた。
 数カ月前、アメリカは、軍事駐留と政府の樹立とを連動させる計画を立案した。この政府は、従属的政府であるが、同時にイラク住民の複数のエスニック集団のある種の代表者から成る政府である。アメリカが組織しようとしているイラクの反政府勢力はあまりぱっとしない展望しか与えてくれないし、反政府勢力の中で優位を占めているように見えてワシントンとの交渉をも受け入れる勢力――イラク・イスラム革命最高評議会――は(イランの)テヘランと緊密な結びつきをもっているので、アメリカはこの国に対する直接的な軍事的統治に向かっているように思われる。
 これは、アメリカの支配のもとで事態を掌握することができるための、多少なりとも政府を整備するのに必要な時間なのである。
 これが、一九九一年の第一次湾岸戦争と現在の情勢との間の大きな違いである。一九九一年にアメリカがサダム・フセイン政権を倒さなかったとすれば、それは全面的な軍事駐留を許さなかった国際情勢とアメリカ国内情勢のためであった。ワシントンはその時、イラク情勢がコントロールを失い、この地域の不安定化を引き起こすことを回避するために、むしろサダム・フセインを権力に留めることの方を望んだのであった。それ以降、ワシントンは、秩序を維持するために共和国防衛隊と親衛隊の存在を意識的に大目に見てきた。
 一九九一年三月の停戦後に、この国の南部と北部の二つの主要発生地で反乱が燃え上がった。この反乱に直面して、アメリカは、フセイン政権がこれらに対して流血の弾圧を行うのを許した。南部では、アメリカ軍は、共和国防衛隊の移動を許すために撤退するとともに、北部と南部でイラク政府がヘリコプターを使って弾圧を行うのを認めた。これによって数千人の死者が出た。
 もし、今日、アメリカがサダム・フセインの打倒を自らの目標に定めたとするならば、それは、国内情勢と同様に、世界の情勢も変化した――すなわち、他の世界との格差がとりわけ軍事の面で広がった――とアメリカがみなすようになったためである。九月一一日の結果生み出された政治的雰囲気は、ワシントンでは、テロリズムに対する戦争という口実で、アメリカの側からするほとんど無制限の長期軍事介入の可能性が開かれたとして解釈されてきた。

米帝一極支配と民衆の希望

――アフガニスタン、イラクと、アメリカは一時期にわたって全世界に軍事力を誇示することになるように思えますが……。

 まったくそのとおりだ。九月十一日以降、アメリカは軍事基地網、さらには直接的な軍事的進出や軍事同盟あるいは両方の組み合わせの組織網で地球全体を覆い始めた。アフガニスタンの戦争を口実にして、アメリカは、モスクワによって今なお行使されているある種の拒否権に属する最後の地域、中央アジア、の中心に軍事基地を建設した。
 アメリカはまた、カスピ海地域にも浸透した。その地域もまた、炭化水素化合物燃料に関わる重要地帯であると同時に、潜在的な対抗国であるとみなされている二国、ロシアから中国へ向かう大陸部の中心に位置しているのでかなりの戦略的重要性をもつ地域でもある。
 また、最近、NATOが新たに拡大され、旧ソ連邦の一部を包含するようになった。これにブッシュ政権が目標としている軍事介入計画を付け加えれば、われわれは、今日、アメリカの軍事的拡張の面で匹敵するもののない抜きん出たその度合いを実際に理解することができる。それは、すでにフィリピンやコロンビアに、アフリカの角やイエメンに軍事的に介入している。アメリカは、ブッシュがイラクと並んで「悪の枢軸」と一括して呼んできた二国、イランと北朝鮮を脅かしている。それはまた、ベネズエラのウーゴ・チャベス政権を倒すために不断の努力を注いでいる。
 ワシントンは、冷戦終結以降、アメリカと世界とを分かつ軍事的格差をさらに拡大するという目的を設定してきたが、アメリカは今や世界の軍事支出の四〇%をアメリカ一国だけで実現するところにまで到達しており、間もなく地球上の他のすべての国の軍事予算を合わせたものに等しい額の軍事費がアメリカ一国だけで支出されるという状況が実現されようとしている。
 だが、このハイパー強国は全能ではない。そこにはアキレス腱が、この戦争機構を阻止し、軍国主義的逸脱を覆すことができる力が存在する。それはアメリカの人々である。アメリカの民衆はすでに、ベトナム戦争のときに、戦争機構を阻止し、アメリカ政府が大量虐殺をさらに推し進めるのを阻み、ベトナムからの米軍の撤退を強制することができるという能力を証明した。このアメリカの大衆動員は、第一次湾岸戦争までは、結果として、アメリカの戦争機構が大量の軍隊を投入するのを阻止してきた。
 したがって、この数ヵ月のアメリカでの反戦運動の驚くべき発展の中に希望の根拠を見出すことができるのである。ワシントンが再び大規模な軍事作戦を行うようになって以来、行われてきた抗議行動をこの間の運動はその広がりにおいて越えてしまった。これは、九月一一日からせいぜい一年後であれば、誰も想像できなかった事態であろう。
 時間的猶予を考慮に入れるならば、イラクに対する戦争を阻止することができるようにすることはきわめて重要である。だが、運動の志気阻喪を防ぐためには、今日、長期的な反戦運動の構築という観点に立つ必要がある。
 なぜなら、われわれは長期間の軍事介入という計画に直面しているからである。ワシントンは、「テロリズムに対する」戦争は数十年にわたって続くことになると宣言している。この戦争機構を食い止め、アメリカの政策の侵略的コースの継続を阻止するための運動を構築できるようにしなければならない。(「ルージュ」(03年2月13日)


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